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ふにゃっ

あの星のふもと、かたちが手を振っている

文章4

手にはなにもない。ただ水の中。どれだけ掬おうとも残るものはただの水。わたしはなんにもなかった。
なにも求めていない。欲しいものがない。生かされるだけでわたしは別にどうでもよかった。
だからなにも掬えないのだ。身体にはなにもないただの水。わたしはただねばねばと水面を漂い惑うしかなかった。
まわりなどない。ただ薄い霧、遠くなんてない。ただずっと同じせかい。どうすることもできない。ただ水を足に粘りつかせながら。
口からよだれがでる。なにを以って生きるというのか。彼はしんでいるかもしれない。
でも彼はなにかを求めている。ただ手だけが前へ遠くに求めている。教えて欲しい。わたしはそれだけが救い。
なんだかんだ彼はそれをやめていない。とにかく漂っていた。ずっとずっと。

「嫌な感じ」
ランドセルから文房具その他一式散らばり放題。
ただ取られただ投げられ。そうやってこういう状況に。
誰が投げたなんてわからない。わからないことにしている。この前誰かに聞くとそういうことにしておきなさいっていっていたから。
なんかねわたしがさただお疲れさんでぶん回し放り投げてそうしたって。そういうことだっんだって。だからねわたしはわからないっていうほうがいいなって。
「ほいなっと」
帰りましょうか。ただのぼって歩いて線の上。おちたらいけないよ死んじゃうから。
「あしたはリコーダーのテストだ」
わたしにリコーダーは難しい。とんでもなくこんがらがる。迷わし師か彼らは。
「嫌だなー」
まあやるしかないしやるんだけどね。ちょっと暗くなる。
かーかー
「あっ…」
どうしてだろう。カラスをよくみる。わたしをみている。観察されている。
宇宙からの使者かな? わたしになんか用? あんたたちはえらい、わたしはこのほしに相応しい人財だ。心容赦なく招待したまえ。損はさせぬぞ。
まあ彼らにも事情があるのだろうね。わたしにコネクトとってきたことは一度もない。ただ観察しているだけだ。
「ばーいばーい。これからも頑張ってね応援してるよ」
そうやってからすとお別れ。いつもそんな感じ。

晩飯はきのこ祭り。鍋にただいれられるだけのきのこ。炊かれる炊かれる。きのこは跳ねる。どこいくかきのこ。わたしのくちのなかにはいりなさい。
「そういう人生もあるのかな?」
みんな生きている。そうらしい。あのひともまたただ歩いたり走ったり。そんなことしてるのかな?
なんか不思議。頭に教科書載せたりリコーダー吹いたり。河川敷にただ座ってお魚ぴちぴちみていたりゆっくりゆっくり遠回りして学校いったり。あのひともしてるのかな?
「からすはそういうことみるのお好き?」
からすに聞いてみた。答えてくれるなんて知らないけどききたくなったので。
かあかあー
からすさんそれっきりはなさなくなった。話す気なし。意気地なしかからすさん。
「だからなんでしょ。わたしのこと好きなんだね」
揺さぶり揺さぶり。からすさんあんたの弱みここだよね。
「もうばれたもんはしょうがないよね。だからねおはなししようよ楽しいよ。こんな陽気な片思いめったにありませんぜ。なっ、なっ」
からすさんただ止まったまま。こちらは見つめているけどなんてことなし。
「きらいなのね。あんたわたしのこときらいなのね。いじわるするからすだね。わたしのことば聞く気ないでしょ。どうでもいいか? ただの録音機か。ぶっこわすぞからす」
石投げる。当たらない。わたしノーコンですから。
「当たりなさいからすさん。それぐらいあんたにせめてできるやつだ。さあ当たりなさい。ほら」
背中にただ黒い血の感覚。わたしは浮かんでいた。なぜか裸で。
どうしようもない。ただ死を待っているだけ。
「ここはどこなんだろう」
記憶なんてなにもおしえてくれない。わたしはただ浮かぶ。
かあかあー
「からす」
電線の上からからす。黒い血だまりに満ちた都市部。からすはまたわたしをみていた。
「なに?」
わたしはあのこをどこかでみたようなきがする。思い出せない。彼はわたしをみている。味見ではないらしい。目をみている。わたしをただみつめていた。
「からすさん」
なんかなにもいえない。からすはなにもしなかった。わたしはただ死んでいくだけなのに彼はなにを望んでいるのだろう。
「知りたいあなたのこと」
わたしにおしえて欲しい。わたしのこと教えるからだから。
ただ呟いて。わたしはいるような気がした。いままでそういう感覚なかったから。からすはずっとわたしの目をみていた。口だけは動いて。わたしもまた彼の目をみていたと気づいたのはいつだったろうか?
からすは飛んでった。どこにいくのかな? それだけをおもって。沈んでいった。

もし昨日に戻れるならなにをするだろう? なにもできない。
昨日になったとしてもわたしは知らない。昨日のわたしは今日を知らない。
わたしたちはタイムスリープ強者。何度もやっている。何回も昨日を体験し続けている。
今日はわたしの記録。将来ほんとのただひとつの今日に戻るまで昨日を経験し続ける。大きな昨日も小さな昨日もずっとずっと今日のために。
昨日へなにか預けるならなにを預けるのだろう。まくら?違いない。
かあかあー
知ってるだろうか。からすはわたしたちをみていることを。
彼らはなにを受け取っているのだろうか。わたしたちに教えてくれているものはなんだろか。
今日の使者よ。からすはただみているだけだ。忘れたわたしたちには不要だった。ただ惑わすだけだったのならなんて哀しい手紙なんだろう。
からすよ。あなたのことばを解読できたのなら。それだけでせかいは開かれるだろうに。
からすよからすなぜ鳴くか。鳴き声知れずただ響く。
からすが鳴いたら帰りましょう。からすが鳴いたら帰りましょう。からすよ道はどこなのか。ここがどこか教えてくれ。
夕焼けにまた鳴き声が響く。からすは飛んでいる。わたしはただみていることしかできない。