卵の殻保存同盟

落ちた鈍い殻はとてもおいしい、と思う

綴り

さんまの降った街から

 

長い そんだけ。

 

あたまにさんまが生えている

 

 

 

「うきあしだつとあたまからさんま、はえてくるんだって」そういうのは都市伝説でしょ。わたし信じてないんだから「でもこの前友達の親戚のいとこのよっちゃんがそうなったってツイッター大騒ぎだったよ」どうせコラでしょわかってる。「ほんとだって。どっかの教授も本当だっていっていたよ」どうせおたまじゃくし大学とかそういうのでしょ?「またそうやってひとのはなしきかないんだから。知らないんだからね」しったところでどうなるさ。あたまから生えないようになんかできないじゃん。「そういう気構えが大事なのさ。もしもの時にね」
そういって彼女はわたしの机からよっと下りて横の席に置いてあったかばんを肩に掛け「いこっか」といった。

「はなしおわってないよ」

「もうおわったよ」

やっぱり都市伝説じゃん。そんなはなし興味ないよ。でも彼女こと有間明音ははなす。わたしのしらないこと。わたしには存在しないなにか。そしてそれは彼女を通してわたしに有るを示してしまうのだ。わたしにも視えてしまう。彼女にとっては都市伝説。わたしには確かな実体。やめて欲しい。

それでもそんなのしらない彼女はわたしにはなす。明日の天気が雨なら画鋲がおかずになっちゃうらしいよとか、飛び降り自殺を目撃した瞬間そのひとと入れ替わってしまうとか。そういうよくわからないものをよくはなす。わたしに示してしまう。

「嘘。うそよ」

ほんとうよ。そうじゃないんだったら話さないわよ。

「いや…」

毎夜きこえる耳鳴りは深夜みちを歩く斧を持った殺人鬼。あなたの垂れたよだれはありを狂気に引き寄せる。

「やめて、話さないで」

ほんとうになってしまう。わたしのまえにあらわれてしまう。嘘でいて。せめて。

「それでも明音ははなしてしまう。なんてないことだから。普通の会話。なんてことない友達同士の。ちょっとしたなんにも障害なんてないとすくない視野でおもってるそんな子のなんてことないはなし」

でもそれは、わたしにない彼女だけのおはなしだった。知らないはなしなんてわたしにはない。だから。彼女のはなすはなしはしってるはなし。

しってるってことはほんとう。うそのはなしはしらない。だからほんとう。

「どうしてわたしたち一緒にいるんだろう」

「ともだちだからじゃない」

よくわからない。わかっていたっけ、いままでも。友達とか知り合いとかよくわからなかったねわたしには。

「だからあなたのはなしもわたしのなかにはいってくるの?」

 悪。嫌な気持ち。そんなことないしたのしいけど。わたしのまえに示される。あなたのはなし。あたまからさんまがはえてくる。

「あれ、ゆうな。あなたのあたま…」

そう彼女のはなしはぜんぶほんとう。だからわたしのあたまからはさんまがはえてくる。当たり前だ。

ツイッターにupしていい?」

「だめ」

そういう帰り道だった。

 

「どうしよう、これ」

 洗っても洗ってもとれない。シャンプーはピリピリ。さんまはピチピチ跳ねている。

「やめて、痛いわよ」

ピチピチ。さかなの動きは激しすぎ。

「さんまさんってひどいわね」

もう流す。せめて跳ねないで。それだけなら大丈夫よね。

 

「これは立派なさんまだ」

おかあさんのくちからはよだれ。

「食べないでよ。ばっちいから」

「ゆうごはんには間に合うわね」

ひふみひふみ。ゆうごはんの算段か。

「いくらなんでもこんなさんままでたべちゃうことないでしょ」

 私は靴を脱ぎ自室に急ぐ。

「待ちなさいさんまをとってからよ」

だからだめだって。

 

このさんまはわたしなんだろうか。デコピンを敢行する。

「痛っ」

やっぱりわたしなんだ。怒ったさんまさん。感じるわたし。

「一心同体ってやつだ」

気をつけないと。おなかを減らしたどら猫ほど怖いもんはない。

「さんまさんがんばろうね」

それが一番だ。

 

ゆうごはんはさんま。さんま定食一丁。

「これじゃ共食いだ」

「あなたさんまなの?」

「違うけど」

もう食べだしているおかあさん。わたしも食わなければ。

「でもさいくらなんでもさ」

  配慮したほうがいいけどなー。少しはさ娘のさデリケートってやつをだね。

「ぶつぶつ言ってないではやくたべなさい。最近のさんまってやつは足がはやいんだから」

「焼いていても?」

「そうよ」

ならくうしかない。1日3食欠かせずに。

「いただきます」

 

わたしの部屋にはぬいぐるみがいっぱいある。いつからか存在した。

「そういう趣味じゃないんだけどね」

「まったくだ」

たこさん。おくとちゃん。

「おかえりというやつだ、ゆうなちゃん」

「いつまで居座るつもり」

「できる限りというやつだ」

そういってぬるぬるわたしの足をすべすべと。

「またそうやって」

「たこだからね」

「わたしのあたまは壺じゃないよ」

どうしてかあたまがお好きおくとちゃん。でもわたしのあたまは…

「どういうことだ、ゆうなちゃん…」

たこさんぷるぷる震えてる。

「さんまはえちゃったの。ごめんなさい」

 仕方ないことだかんね。まあたこちゃんもね、あたま冷やしなさい。

「おれの居場所がなくなったということじゃないか」

この部屋にいれるだけでラッキーってやつなんだよ。だから気を落とさない。

「やっぱりおれはたこ焼きになる運命なんだ。おいしいたこ焼きとして極一般的な大阪の売店でくるくるまわされるんだ」

おいしいたこ焼きならいいじゃん。そうならさ、みんな幸せハッピーターンってやつあげれるからね。わたしもくってあげるから心配しないで、ね。

「おれはたこだ、王様だ」

 残念ながらね、この地域ではたこは伝承されていないのだよおくとちゃん。

春画があるじゃないか」

えっちぃはなしは禁止だよおくとちゃん。

「おくとちゃんいうなー」

そうはいったってどうよべばいいのさ。たこなぐり?

「たっちゃんだ」

 王様なのに? なんかよわそー。

「弱くなどない。伝統的なだなー」

どうでもいいからチャンネル変えるね。

「やめろー」

 

 

「やっぱり目立つよね」

でんわ、でんわ。明音とお電話。

「それでもさ、さんまちゃん嫌がるからね」

ぼうしに穴あけんとね。

「冬とかどうなるんだろうね。死んじゃうんかな」

 凍死するかさんまちゃん。

「みそ汁常備していたら大丈夫だって? そんなの経済的に不可能だよ」

 飲み続けないといけないんでしょ。そんなの無理さ机上の空論さ。全自動みそ汁飲み太郎じゃないんだからさ。ね。

「冬になったらわかるさ。海だって寒いんでしょ。だから大丈夫だよ」

わかんないけど。さんまちゃんは大丈夫だよね。

「明日からが心配さ。さんまと生活しなければならんからね。寝返りとか大丈夫かな。ふとんに潰れたり…」

さんまさんまさんま。どうなるさんま。

「そういえばなんで生えてきたんだろう」

わかってるけど。不思議だね。

「どうしようもないけどね。いつまでいるんだろうっておもったの」

たこちゃんもだけど。

「じゃあね。またあした」

 

 

ゆめにでてきたんじゃないかってぐらいの噂。

みんな話しているね。わたしのしらない、でも確かな存在。嘘じゃなくてほんとうの。わたししってるよ、聴いたから。

あのひと。だれ? しっている。毎日学食でまんが読んでいるんだよね。名前は確かアウグスティヌス。有名だよ。

ほんとうにあなたはいたんだろうか。わたしは確かめた。生徒名簿。名前をめくる。

いるの? いないの? わからない。わたしに名前は難しい。

「いるよいるよ、いるんだね」

いるということにしておこう。わたしに探偵むいていない。

「またの機会ってやつだアウグスティヌス。覚えておけよ」

そうやってまたおぼろけになっていく。ゆめだもんね。仕方ない。

 

「あさおきた」

あたまを確かめる。ピチピチ跳ねる。まだいらっしゃる。

「三日天下もゆめのようだ」

 徹夜ですかおくとちゃん。

「たこ焼きになると思うと寝れなくて」

なかなかそういう問題は難しいからね。わたしも思春期ってやつだかんね。わかるよ。

「たこ焼きになんてなれないきみにこの気持ちなどわかるわけない」

 似たようなもんさ。

「人間になど理解できない…」

 溶けていく、シュワっと。

「どうするつもりおくとちゃん」

「旅にでるよ旅に…」

それは御体なこって。がんばってね。

たこちゃんはもういない。朝は目覚まし時計。

「早く止めないと家が壊れる」

そういうことです。朝はそういう時間なのです。

「さんまさんも起きたほうがいいよ。危険だよ」

 

「いってきますー」

 朝は口に目玉焼きぱんを囓って登校。法律で定まっておる。

「あんたも律儀だね。そんなの守っているやつみたことないわ」

「だって大切なことだよこれって」

「そんなのエヴァでしかみたことないわ」

「わたしはしっているよ。他にももっと…」

「パロディーちゃん」

「うぐっ」

 朝の電車。そこそこの満員である。

「でもさ、それでもこういうことって受け継いでいかないといけないと思う」

「受け継ぐっていうかさー、これってただ生活の流れで起きることじゃん。そうなの意識しなくても普通に大丈夫じゃん」

「朝のパンかじりはなくなっていくよ」

「いまどき食パンなんてはやらないからね」

「だからだよ」

「そういうのは文化庁に任せとければいい」

そういって明音ちゃんは最寄駅に到着するなりすぐさまでていった。

「いつもそんな調子」

わたしもでないといけないね。

 電車からでるのって難しいんだよね。みんなさふらふらしてっから潰さないように気をつけないと。

「はやくしないとドアしまっちゃうよ」

わかってるけど。いつもさ、だからさ、こうやってさ。

「みんなでちゃってるよ。落ち着いて。ね」

わかってるてば。

『ドアが閉まります。ご注意ください』

まって。まってよ。

 遠いよ。

「ほら」

 彼女の手。明音が電車のなかに戻ってわたしのところまでやってきた。

「いくよ」

「うん」

 彼女がついていると案外案外容易いもので、ほらっていうまにフープっちゃうのです。

「明音って通り抜けフープだね」

「なにいってるの先いくよ」

 彼女はもう歩き出していて。わたしは地べたに座っているのですが。なかなかにすぐに立ち上がって彼女のよこまで走るのです。そして

「ありがとうね」というと彼女は「別に」って。

そうやってただ学校まで歩いていくのです。とぼとぼとね。

 

朝、学校につくとわたしは教室にかばんを置いてすぐさま自動販売機にいく。右手にあるさいふからさ150円取り出しながらいくんだ。この時間帯はさ、まだちょっとほんわか静かだからね落とさず済むんだ。

それで辿り着いてさそのお金を、いれるところ(あれなんていうんだっけ)にひょいひょいといれていく。あれさ結構緊張するんだ。もしかしたら失敗しちゃうかもって。

なかなか失敗せず今回もまた大丈夫。それでお目当てのバナナオレをみて、うん今日もあるね売り切れていない、ボタンをおすぞって手をだしてポチッとな。

「ガタンっ」

わたしはかがんでカバーあけて、どこにあるのかねって具合に手をうろつかせてああ、ありました。拾ってね、うん。バナナオレだ。

ストローカバーから外してプチュッ。そしてチュー。

おいしい。

 今日も朝だね、おはよう。

わたしは学校にきたんだね、うん。

 最後の一滴までジューっていわせながら飲む。飲みきったら捨てる。いっぱいで溢れているごみ箱のうえにのせておく。

「そういうこともある。うん」

そして小走り。教室に戻る。おはなしあるからね。明音がまってるからね。うん。

「あんたどこいっていたのよ」そうきたら「いつものところ」って。明音はさ座っていて手に頰をのせてちょっと退屈そうにしていたんだけどそれをきくとちょっとだけ口を緩めて「しってた」っていうんだ。これがわたしたちの始まりなんだ。いつからか知らないけれどこれが朝の挨拶みたいなやつなんだ。そうじゃなくてもね、わたしはそうおもっている。それだけでじゅうぶんさ。わたしはね。

「またぶつぶついっている」

 呆れた顔。

「なんか朝っていう感じじゃない?」

「そりゃあ朝だからよ」

 朝。おはようございます。わたしの朝、始まります。

 

「そういえばあたまのさんま消えてるね」

あれま⁉︎ どういうこと。

「夜行性ってやつじゃない。引きこもりかも」

ひきこもりっていうよりミギーとかそういう類かもしれないという説はどうだろうか。

「頭に寄生ってちょっと信じられないわね。どうなったらそういう状態で失敗するのかしら」

ミギーじゃないからね。それはわかってる?

「わかってるわよ。ひとつの冗談だよ」

ふーん。

 

でもさんまさんどうしたのかしら。わたしがちょっと地に足が着いたからいなくなったのかな。それはなんていう目覚まし時計なのだ。

「ありがとうさんまさん」

とはいってもさんまさんなんじゃらほいだけどね。べつにどうでもいいだろうがね。

「それでもさありがとうだよ」

 

 

 

私たちは学ぶ。なにを学んでる?

「パスタの作り方でしょ」

かたくり粉をこねこねこねまわし、そらに三回放り投げて最後にキスを。

「そんなのでパスタができるわけないでしょ」

でも黒板にはそう書いてあるよ。

「あれは魔法のパスタ。わたしたちには遠すぎるわよ」

そうかな。意外に容易くできそうな気が。

「じゃあひとりでやっていなさい。わたしはおいしいパスタつくっているわ」

明音は机の脇に置いてある市販のパスタの袋を開けて沸いた鍋の中へ彼らを投入する。

「火傷するよ、パスタちゃん」

「パスタはもう既に焼け死んだあとよ」

 明音はただ鍋をみている。

「この子等も魔法だったのよ」

 淡々と語る明音。

「パスタ農家だったの明音って」

 彼女は足をこちらへとむけ咳をして

「遠からずの関係よ」

ということはしってるのパスタの真実。

「そんなもんね」

 教えてよ

「そう簡単にひとへ伝承するもんじゃないわ」

そういいながらも彼女はスマホをぽちぽちさせている。

「そこにいきなさい。あなたはしることになる。パスタの運命を」

 明音は足を鍋のほうへむけた。

「おいしいパスタつくっておくからね」

わたしもくいたいおいしいパスタ。

「だからはやくいってきなさい」

いってくるよ。気長にまっていてね。

「できる限りね」

 

わたしのスマホ、明音からの伝言。場所場所パスタの居場所。

「ここがパスタのくにってわけか」

 少しわたしたちの街からは程遠いいわゆるひとつの僻地。木がいっぱい生えてるね。むしがうじゃうじゃ歩いてそう。

「こういうところでパスタは踊ってるわけだ」

 生まれ踊り散っていく。生涯はそういうもの。パスタもそうだ。

「お城の中で暮らしているっていったけれど」

ここにはお城は見当たらない。ちょっとした木が邪魔してみえないね。

「みせてくれよおきき。それぐらいの下心見せてもいいんだぜ」

まあ風通し悪いからね。許しの心がないわけでもないよ。

「仕方ない。ホームページググって電話でもしてみよう」

それが一番はやい。

 

『パスタの杜。魔法のパスタ、彼らの暮らし。スパゲッティー』

お城の名前だね。

 変なデザイン。

 電話番号あるかな。

あったね。

ひふみはそちらっと。

……

つながった。

「どうもです。見学したいもんです。いいですか。いいですね? ありがとうございます。それでですねわたし、ほんのふつうな迷子になっているので迎えにきてくれませんか。場所ですか? 木がいっぱいあるところです。ダンゴムシがコロコロしています。わかりました? じゃあきてください。絶対ですよ。お願いします。切りますね、はい」

きてくれるかな。

 

少しうたた寝ぐらいになってからなにやらやってきたおしろのひと。

「あなたがパスタのひと?」

「そうです。わたしはパスタのひと」

いけめんさんだ。

「話にきいてますよ。明音からはよろしくと頼まれています」

「彼氏さん?」

 少し逡巡して

「違いますよ。いわゆるひとつの遠い親戚ってやつです」

「いとこのいとこのまたいとこ?」

「そういうところです」

さあこっちについてきてください。彼は歩きだした。

「はなしおわってないよ」

彼はこちらを向きながら

「歩きながらでもできるでしょう」

さも当然のようにいった。

(歩きながら話すのはなかなか難解なのに)

「わかっていないよきみってやつは」

「そうはいわれましてもね」

彼は首を左右にくたびらせる。

「はやく行かないと夜がくる。こういう対応は必需品ですよ。あなたも覚えたほうがよろしい」

そうはいっても難しいものは難しい。

「まあいいでしょう。おはなしというのはまたの機会ということにしましょう。話すのが難しいのなら」

そういうことじゃないよ。

「そう瞬間に全て終わらせるには我々はまだ経験不足。苦いものもまた食べれば明日甘さがわかる」

なにいってるの。

「いつか当たり前におはなしできたらいいですねということです」

 彼はこちらをみて微笑む。

「わたしもそうおもう」

「でしょ」

そっからはただ黙々とお城まで歩いていった。

 

「ここがお城」

 薄茶色いレンガが積まれているだけ。不安定で今にも崩れそう。

「よく保っていられますね」

「ここのレンガはしぶといのです」

そういうことにしていいのかな。上の方とかおっとっとしているし。下のほうは泣いてるし。

「行きましょうか」

 彼は歩きだす。わたしはついていく。レンガさんお気の毒に。

 

「なかはねひとつの温室というかそういうもので」

ちょっとした渡り廊下。彼からの説明。

「そういうことで心地よいですよ」

「パスタはお暮らしを?」

 「そうです。生パスタです」

パスタ農場彼らの暮らし。どういう暮らし。

「おいしいパスタは生に限りますよ」

「あっお口」

パスタちゃんがお口に入っている。泣いてる、泣いてるよ。

「まあ確かに生をそのまま齧るっていうのはなかなかリスキーではあるのですよ。こうやって騒ぎまくりおるからね」

 痛い助けて。激しく解き放たれようと。

「歯が折れちゃうことがあるけどね、やめられない」

がりがりぼりぼり。断末魔。生パスタの終焉。

「おいしいおいしい。午後の癒し」

 右手のおおきな袋。いっぱい動いてる。生パスタ。彼はそこへ手を入れ、ああパスタ逃れようと動き激しいがさすがプロ。一瞬で捕まえた。引き出す。ばたばた。せっかく外に出ても身体は捕まえられた生パスタ。お気の毒。

「あなたもひとついかが。とめられないよ」

べつにいいです。そういうと彼はこの味を知ろうとしないなんて愚かなやつだ、そういう顔でそのまま左手にいる生パスタを口の中へいれた。

「おいしいおいしい。午後の癒し」

 

「さあここですよ」

ほんの少し歩いただけでそこにドアがある。まあでもガラスになっていたしネタバレは済んでいるからねなにも驚くことはない。生パスタの日常。

「どうぞあなたがドアを開けてください」

ありがたみはないけどね。

「どうぞ」

はい開けますよ。

という具合で開けるとなかなかに温かい空気を浴びる。うんうたた寝にぴったり。

「寝たらパスタに食われるよ」

そう平然にいうが。パスタとはそんなに狂暴なもんかね。

「なにをいう。野生のパスタが街を襲撃したという話はざらにあるじゃないですか。先月だって輸送中のバナナオレが盗まれるという凄惨な事件が起きた」

「あなたもバナナオレお好き?」

「よくご存知で」

 植物いっぱい温室さん。パスタがそこら中で踊っておる。

「ここの部屋はねパスタが立派に育つためにあるのですよ。あの草とかその草とかパスタがいいストレスでいられるのです」

たしかに程よい緊張感。持ちつ持たれつってやつだな。

「一ヶ月に一度レクリエーションも行なっているのです」

そこら中に写真が貼ってある。パスタの運動会。一位は赤組。嬉しそう。

「写真取れ取れせがまれましてね。ああやってそこら中置いていやがるのですよ」

パスタは写真がお好き。

「もう一生写真など」

スタパスタ生パスタ。

あっあおむしが。

「そうなのです。あおむしもここにいる」

キャベツがないのになんで。

「あおむしはねパスタがお好きなのです」

かじられている。かじられているよ。

「パスタと肌があうのですね。なんとも艶やかに食われているものです」

そうかな。

youtubeの再生ランキングでも1秒だけ全世界一位になったことがあるくらいですから確かです」

それはすごいけれどまあなんともいえない。ていうより

「なんでパスタちゃん食われてるの」

「当たり前です。ここはパスタ農場。おいしいパスタのためあるのです」

そういって彼は皿の上にひとりのパスタちゃんを置く。

「食べてごらんなさい」

「生は嫌」

「処理済みです。危害はないですよ」

なら大丈夫。皿をもち右手でパスタをもち口の中へ。

「うむうむ…?」

 歯ごたえなし。味も。

「ふにゃふにゃでしょ」

はい。

「そういうものはここからはだせない」

だからこそですか。

「そういうことです」

パスタは元気にダンス。

「おいしいパスタ食べたいでしょ」

そういって右手の袋からまたパスタだして口の中。

「ここで働くと生パスタを毎日食べられる。そんな幸せなことはない」

パスタちゃんが前を走っている。

「あっと、袋以外のパスタは食べちゃならんですよ。あれは大事なパスタだ」

ぼりぼり食べている。

「あなたもいかが」

 袋が目の前に。

「食べたくなったでしょう」

おいしそう。パスタは蠢いている。

「今なら半額サービス」

がりがり。どんどん食べていく彼。

「もうすぐ私が食べ尽くす」

 握っては口、握っては口。

「どうパスタ。生だよ。いけてるよ」

「た、たべます」

「だろ」

 彼の目は血走っている。まるで、まるで。

 身体が震えている。彼は右手を、少し緩めてそこから嘆きの音が、くぐもって伝播する。そこへ左手を瞬間華麗にいれる。すぐにもどってくる。そこにはパスタ。生パスタ。

 痛そう、辛そう。私に踊らせて。パスタの人生送らせて。

 左手の強さがいい感じ。生かさず殺さず。パスタがいい感じに空虚にこえをだす、そんな強さ。

プルプル左手が。パスタに全く刺激が伝わらないように生かしながら。腕が震えている。それでも私の顔の前へ。近づいてくる。

「生パスタ一丁」

わたし瞬間齧った。口の中わたしの血。それでも噛んで噛んで飲み込んで。ああはいるはいるくちのなか。体に染みる。野菜? いやそれ以上。血がない匂いがない。それでいて力に溢れていて、フレッシュ。

「まだまだあるよパスタ」

たべたいたべたい。わたしはたべた、ただたべた。

「おいしい、おいしい」

それが生パスタ。せかいに誇る生パスタ。

「そうたべれるもんじゃないぜ」

彼はどんどんわたしへ運ぶ生パスタ。

「おいしいおいしい」

「そういうもんだ」

 

わたしは寝ていた。ひなたぼっこ。温かいから当たり前。

「それにしてもあなたの食いっぷりは見事なもんで」

うえからみている彼。おんなのこの寝顔をみおって。許せんやつだ成敗。

「いやああんなに食べた人初めてみましたよ。見事だった。大食い女王への道がみえましたよ。これは偉いことだ、時代の始まりをみてしまった。黄金時代」

わかったよわかったから。

「みてください。わたしのじゃ飽き足らず他の同僚の分まで」

 合計7つの袋。生パスタちゃんたちの叫び。わたしのおなかのなか。

「いやあ見事だった。わたしじゃ勝てない」

そういって彼は歩きはじめる。

「どこにいくの」

「パスタ加工場ですよ」

ついていかなければならない。なんのためここにきたのか思い出さないといけない。

「あなた、生パスタ食いにここにきたんじゃないんでしょ。満足しているようですがね」

 確かに満腹二度寝オーライ。

「でもわたしはパスタさんの生涯を見に来たってわけだ」

なかなかに動かぬ身体。これが満腹ってやつか。

「最近街じゃさんまぐらいしか食えないんでしょう」

 与太話。

「ここは天国ですよ。あなたも実感したでしょ。戻れないでしょう」

パスタの城は難攻不落。わたしのお腹はパスタに巻かれる。

「まあ時代ってやつですよ。パスタの時代」

でもおいしいのって生だけでは?

「そうならばここは存在しない。生から死へ。息がいっぱい詰まったパスタ。それこそ生を食べられない街の人々に許された約束の食材」

いわゆるひとつの普通のパスタ。

「それをするためにはこうするのがベストなのです」

いつのまにか到着したそこには火が走っている。燃えている。せかいがもえている。

「生きに生きたパスタたち。彼らは人生を謳歌した。恋に踊りに運動会。誰しもが経験できることではない。選ばれたパスタだけが突破できる狭き門。彼らはエリートなのです」

 炎のダンス。皮肉だけど楽しそう。

「そういうパスタほどおいしいもんはない。今すぐ食べちゃいたいぐらい」

あんな熱いパスタ食えたもんじゃない。

「だからこそ意味がある。本当にうまいパスタだからこそ死への圧倒的恐怖を味わえる。立ち向かう。全身で戦える。そして彼らは燃やし尽くされてただのパスタになる。最大限に呼吸を取り込んで」

ダンダンス。生のダンス。

「世界で一番輝いている」

 少なくともこの瞬間は。

「それを体現できるのは本気で生を感じていた奴だけだ」

パスタは死ぬ。間違いなく死ぬ。それなのに誰よりも強く激しく生きている。業火の中誰も感じられなくなっていても、それでも。生きている。

「パスタに救いはないのかな」

「ないですね。少なくとも本気で食ってあげることぐらいでしょうか」

 命のダンス。業火のパスタ。

「ただわたしたちの生活の一部として存在しているだけなのです。パスタってやつは」

ただそれだけのため。それぐらいのことをしないとそれだけにはなれない。

「なんできついパスタの現実」

「それこそパスタなのでしょう」

そうして私たちはその場を去った。次の現場に行った。命を尽くした彼らのその後を確かめに。

彼らはやはり普通のパスタになってしまっていた。なんてことないパスタ。わたしのよく知ってるパスタ。普通のパスタ。

 彼らはただの一般的庶民が食っているパスタとして袋にいれられる。パッケージされる。いっぱいそういうのが積まれていってダンボールにただ詰められてトラックの中に載せられてスーパーにいく。そしてパスタを今日の凌ぎにしようと思いたったひとに買われて鍋に入れられ各々のパスタとして人の口からおなかへとそして消えてなくなってしまう。

それがパスタ。普通のパスタの一生であった。

 

「ってな具合だったよ」

 明音はそんなにパスタを作ったことがないらしい。生で十分だったから。

「まあ少し切なくなるわ」

ミートスパゲッティー。

「でもまあなんかこれが普通なんだなー」

 市販のパスタ。お味は特に。

「なかなか大変なのよ。これぐらいでも」

お口のなかにパスタがチュルチュル。

「難しいね」

「大変だ」

 普通のいつものお味のパスタ。なかなかに特になんともいえぬ腹の足し。

 

 

 

なかなかにお腹が減ったと申しえば さんまみそしるごはんにらっきょ。あなたの生活満喫か。

そうはいえず飽きてくる。

「他になにかないのー」

「世の食はさんま定食これ一本」

 頭固いんだから。パスタぐらいはいいでしょ。

「だめ。世の中にはさんま定食しか食えない種族があるの。それがわたしたち。わかりなさい」

そうはいってもな。ただ黙々。 おくちにはいる。噛む。のど通る。おなかに感じる。ため息ひとつ。はし動かす。掴む。引き寄せる。おくちあけ。いれる。噛む通る感じるため息、繰り返し。

 

「もう嫌だ」

 学校に頭をかかえた少女。緊急通報されるよきいつけないと。今時防犯なかなかです。悩みは焼却消化せよ。

「まあそういうものじゃない」

そういいながら明音は笑ってる。いい微笑。

「そうはいったって」

 身振り手振り。わたしの悩みはこれぐらいです宇宙を超えます。

「さんまの街ですからね」

 窓の向こうではさんまが降っている。予報通り。

「きょうは大量ね」

「またさんまだ」

 落ち込み度100%。SDATがわたしを探してる。

「あまりに当たり前になりすぎたのね」

 彼女は立ちあがった。そしてこちらをまっすぐ視つめる。

「さんまも復権したがっているわ」

おくちにさんま。どういうことだ明音ちゃん。

「結構すきなの。さんま」

いわしより?

「当たり前」

彼女は歩きだす。どこいくの?

「さんまを探しに」

ただそういって彼女はこちらを向かず教室を出ていった。わたしがついてくるのなんて当たり前におもっているのかね。そうはいきませぬ。わたしは断じてそう台本通り動く野郎ではない。順次お約束を破る型破れチルドレンだ。

 「そうはいってもあなたはついてくるのね」

そうなのです。わたしはついていっちゃっていたのです。

「そういうもんね」

「どういうもんだ」

よくわからずおはなしだ。

 

そらから降ってくる今日のおかず。スーパーもあがったり。

「パスタ産業は大丈夫なのかな」

「さんまはおいしい」

 生で食べる明音。君ってやつはなかなかだ。

「結構いけるのよ最近のさんまは」

そうはいってもだな。匂いがだめだよ。おくちのなかでさ生臭いお肉の匂いが、からだの中で伝播して腐っちゃう。

「それが結構いけるのよ」

あなたは王者だね。わたしじゃかなわない。

「からだが腐っていくっていうのはいいことよ。ほら」

 明音はシャツを捲り上げて誇張するようにからだをほんのちょっぴりねじれさせた。彼女のよこっぱら。繭が張ってるよ。黒ずんでいるよ。

「ああ感じる。腐る。喰われる。わたしは蟲になる」

 明音は腐海の一部になりたいの?

「このままどんどん拡がっていくことを望んでいるわ」

「どうしてなのさ」

「幸せなのよ。わたしが侵食されていってそれでいてわたしはまだいきているの」

 明音は繭を指さす。繭は動いてる。呼吸している。いきている。

「ゆうなはどう。興味ない?」

わたしが喰われる。繭に。蟲になるの? 腐海になるの? わかんないけどなんか溶けていく。わからなくなる。わたしがいなくなる。とろとろのせっけんみたいな固有物。私は蕩けただそれに。ムーピーになれるのかな。

「なれるのかなムーピー」

「それはわからないわ」

でも。彼女は続ける。

「わたしたちが生きられるならそれにこしたことはないんじゃないかしら」

 生きる。生きられるひとはあまり居ない。生きるはせかいに難しい。

「蕩けたいなわたし」

それがゆめ。

「蕩けられるわよ。腐りを引き受けられるのなら」

 身体が腐っていくよ。始まりは普通だったの。ちょっと快くて。ああ、いい。わたしは蕩けていく。腐っていく。生きている。生きているんだ。それを初めて感じられた。いままでって嘘だったのね。

そうだったのよ。それが心地良くて。はまちゃった。お遊びじゃないのにね。駄目だったのかも。気づけという方が無理よ。それをしったのならやめられないんだもの。

「腐っていったらわたし感じられなくなるんでしょ」

わたしというもの。今日、明日。なくなっちゃう。

「それってなんか怖い」

わたしが生き続けていられるのはたったそれだけの安い怖さ。

「だからわたしは、」

「そう。ならいいのよ」

 彼女はシャツを降ろした。

「あなたまですることないんだから」

 明音はよたりよたりシャツを整えていく。

「まあこういうものもしっていたほうがいいわ。後学のために」

 明音は首を振りミディアムってる髪の毛を宙に浮かせ目を預けそして目を開けながら言った。

「じゃあいきましょう。少し道草食っちゃったわ」

 明音はただそれだけを言っていつも通り歩きだした。明音の歩きだ。

「そうでんな」

わたしもついていく。ただ彼女のほんのちょっぴりななめ後ろを。どこいくかわかんないからね。ほんとだよ。

 

私たちはただ歩いているだけだった。天気予報通り新鮮なさんまが降りしきる街を。みんな拾っている。網の中に貯めている。何日ぶんのさんまか考えたくない。ただ降っていた。

ゆっくりゆっくり原画だけで動かされたアニメの如く降っていた。私の頭の上に落ちる。

「いてっ」

あまり痛くないがそうする。

「なにしてるの」

 彼女はこちらをみながらそういった。

「そうしたくなっただけ」

わたしの声聴いたかさんまさん。少なくともこうせざるを得ない少女はここにいる。それを忘れてもうたら困りますね。わかってます?

「いつからかさんまが降るようになったのね」

 明音は空をみながらこえをだす。

「さんまが降らない街なんて存在するのかしら」

「そんな街あるならはやくいきたいね」

さんまマークはだれでもしってる。天気予報はどこでもキャッチできる。砂漠にもさんまは降る。さんまの血はいい水分になっている。さんまはせかいの希望。

「この街にもさんまが降っていない時期があったかもね」

 彼女は公道のアスファルトの上に座り込んだ。おっぴらげ。

「スカート汚れるよ」

「別にいいの」

まだうえをみている。

「降っていない街がよかったなー。わたし」

それならからあげ定食とかぎょうざ定食で一夜過ごすことも可能だったのに。

「もし降ってなかったとしたらこの街はどうなっていたのかしらね」

「からあげ定食ハーピィーターン」

 彼女は朗らかに笑う。そういうこともあったかもねって。

「でもわたしたちは存在できないだろうねそんなせかい」

「なんで」

「さんまなしで耐えられたかしら。いきるということに」

「からあげあるなら大丈夫だと」

 明音は立ち上がりながら

「そうだといいのにね」

ふふって笑わなかったけれど、そういう声が聞こえた気がした。

「馬鹿にしたでしょ」

「たぶんね」

お尻を払い

「わたしにはなかなか難儀な問題だわ。いつか判れる日がきたらいいけど」

と呟いた。

「明音なら大丈夫じゃない」

「そうね」

そういってまた彼女は歩きだす。ただ歩く。さんまと街とそのうえのわたしたち。斜め前の彼女とわたし。そしてさんま。頭にさんまが生えていた。

「あれま」

ピチピチしてまっせさんま殿。痛いぞさんま殿あまりにのピチピチは頭にも届く。脳震盪しますぜ。あまりに不透明な脳震盪使っちまったぜ。わからず言葉呟いちまったぜ。

「またさんまさん」

ツイッターダメ」

すぐさまスマホをだそうとした明音にストップ。そのはやさじゃ幾多の死線を通り抜けたと知れる。戦場カメラマン?

「引きこもりさんもお仲間さんのこえには耳を傾けるほかないということですか」

 顔が近いよ明音ちゃん。さんまさん驚いちゃう。

「それぐらいの刺激受けないでなにがさんまですか。そんなさんまいりませんよ」

まあそうですが、この子は弱いのです。引きこもりなんです。少しづつ経験させるほかないのです。そういう状況なんです。配慮してやってください。

「わたしは美味しいさんまが好きなの。あなたはおいしいのかしら、ひきこもり」

ああ、かじっちゃダメ。それだけはダメ。

「どうして。あなたのようなさんまがどれほどの味か確かめたいだけなのに」

「このさんまはわたしなのです。わたしにも痛みが伝わるのです」

さんまを保護保護。これだけはダイレクト派手に痛みが伝わる。守らないと。

「それはお気の毒ね」

 明音は離れて地面に落ちているさんまを拾いそのまま丸かじり。

「やっぱり新鮮だわ。地面に落ちたばかりのさんまほどいいものはないわね」

さんまピチピチ。地面に落ちた幾数のさんま。ただピチピチ跳ねている。車が走ってる。轢く轢く。さんまたちはどんどんグッチャグチャ。ただ落ちたところがよかったさんまだけはまだまだピチピチ跳ねている。

「そんなにさんまはおいしいの」

 明音は口を止めた。

「そりゃあもちろん」

「生パスタぐらい?」

「それ以上ね」

 丸呑み。そしてシャツを捲りあげる。

「ここに効くからね」

 繭。呼吸。うっすらと。

「生しか食べないの?」

「そうよ」

「明音ってなんでも生なんだね」

パスタもパンもお肉もなんでも生。

「生しかおいしくないからね」

 腐り姫

「生きるってことはそういうことよ。食事は生きるためにあるのだから」

 明音はまたさんまを拾って食べた。おいしい、おいしい。

「あなたはなんのために食べているの、なぜ食べられるのゆうな」

「えっ?」

「食うことは苦痛じゃない? わたしは無理だわこんなもの」

 明音は食って血まみれなさんまを地面にぶちかました。ただでさえ血まみれなさんまが派手に散っていった。

「生かすため力にするため。ただそれだけのため」

 地面に落ちてるさんまを拾い丸呑みそしてまた拾い丸呑み。彼女はむさぼる。もうおなか限界だ。

「そこらへんでやめときなよ。もうパンクするよ」

「確かにそうかもね。でも始まったものは止められない」

 活性化、活性化。彼女は死ぬ。生きるために。

「本当に腐っちゃう」

ただのつぶやき。だめだと思ったから。ただそれだけ。でも明音は食うのをやめ(食いかけのさんまは手からこぼれ落ちた)こちらへとゆっくりと近づきながらこういった。

「なぜ腐っちゃいけないの? あなたは腐っていないのゆうな。あなたの頭の上にはそんなに立派なさんまが生えているというのに」

さんまさん。

「わたしが生やしたんじゃないよ。勝手にでてきたんだよ」

わたしのさんまさん。

「なら引きちぎってやる」

いらないでしょ。いらないならわたしにちょうだい。

「だめ」

 明音の手はさんまにかかっている。さんまさんピチピチ跳ねている。痛い、冷たい。明音の手は冷たかった。

「痛いのは嫌」

さっきいったのに。聞いていなかったの。わたしのはなしきいていなかったの。なんで、ねえ。

「ゆうなもさんまが必要なんでしょ」

 明音の手はさんまをギシギシ圧迫させていく。まるでクジラの胃の中。

「そうだよ」

じゃあなんでこんなことをするの。やめて、やめてよ。

「やめてほしい?」

「うん」

 即答。

「いやだ」

なんで。こんなにもやめてほしいって。かおみてよ。もう限界だよ。身体が潰れそう。熱い、熱いよ。パンクしちゃうよ。だからもうやめて。ごめんなさい、ごめんなさい。

「なぜ謝るの」

「わるいことしたから、こんなことになっているのかなって」

「そう」

 彼女の手は緩まりわたしは地面に瞬間ドサっと解放、そのままただ息を整えるぐらい、ただそれしか考えられず明音とかさんまとかなにもかも考えられなかった。だからこのとき明音がした行動の意味なんてわかるわけがない。そのとき本気で考えられるならこんなことにはならなかったのだろう。だからわたしには当然の出来事だったのだ。なんてことない当たり前の出来事だった。

 「あなたのさんまってまずそう」

 明音はそういったきがする。でも実際のところはわからない。わかっていることはわたしがまわりをみられるようになったときにはただ食い散らかされたさんまの残骸だけがあって明音はいなかったということだけだ。

「ごめんなさい」

どうしようもなかったけれどそうつぶやくしかなかった。わたしのためのことば。さんまさんは消えていた。

 

 

 

150円を取り出して入れてボタンを押してお目当てのものが落ちた音が響く。でもなんとなく拾う気になれなかった。

この街はなくなるかもしれない。それでも学校は平常運転。きている人は少なくなっているけどそれでもいつも通り。

ここ数日のさんまは凄い。あまりに大漁食べきれない。それだけならよかったのだけどさんまは雪崩のように降りだした。せかいがみえない。学校以外は潰された。

 街はなくなったのかもしれない。わたしがあると思っているだけでとっくになくなっているんだ。それぐらいにさんまは当たり前にせかいの視野を占領した。

「もうさんまなんていらないのに」

ピチピチ。わたしの頭にもさんまが跳ねている。きみは仲間がいっぱいでたのしいかね?

「ピチピチ」

そうかそりゃあよかった。

 

せかいのすべてを破壊した(であろう)さんま

わたしたちだけはなぜかここにいて それらしき生活を営んでる

雪崩 直瀑 圧倒的破壊

なぜいきているのだろうか 騙しているの?

解放して 助けて

わたしはそとにでる さんまを浴びる 直撃する

それでも生きていたのなら わたしは許されたのであろう

 だからやらしてください お願いです お願いです

 

でもわたしにはできない。できないからここにいる。とてつもなく情けない。

でも仕方のないことなんだ。どうしようもなく弱くてそれを受け止められなくてもっと駄目になっている。へたれ、くそ。それがわたし。

「さんまさんはどうおもう。わたしのこと」

ピチピチ。跳ねている。元気があってよろしい。

「はあっ…」

どうしようもない。わたしはしゃがみ自動販売機のケースを開けてバナナオレを取った。

「まあやるしかないか…」

ストローを出して差し飲んだ。

ジュー。

わたしはただ歩きながら飲んだ。外のさんまを眺めながら校舎へと戻った。激音のなかただ静寂を保つ学校。チャイムが鳴る。なぜか響いている。キーンコーンカーンコーン。キーンコーンカーンコーン。

 

「ここがせかいの中心というわけですね。ほらこの通り。コンパスでせかいは造れるのです」

だれもそれをしらない。聴く必要を感じないからだれもしらない。なのになぜここにいるんだろう。どこかへいけばいいのに。したいことをすればいいのに。

 削除削除。無駄を削除。わたしは消えてなくなりました。さようなら。

 足を伸ばす。ため息ひとつ。どうしようもない。

 抜けだしたい。抜け出したとして、だ。

 外は死に屋上もまた。他の教室、トイレも嫌だしなんていうか息詰まり。

だからみんなここにいるのかな。どうしようもない末にここにいるのかな。

 弱さを耐えきれなかったものの末。いきていたならこれが最後なのだ。

「生きたいなー」

 生きるは難しい。難しすぎる。どうしても無理なんだ。

あの激流の中に入り込んだら間違いなく消える。わたしはなくなる。なくなるに耐えられる?

 耐えるものじゃないんだ。ただなにもわからずそのままやっていくということなんだ。それをわかっていない。わかるわけない。これもまた思い込みかも。

やらなくちゃわかんない。結局思い込みかもしれない。でも、でも。

やっぱりやるしかないんだ。とにかくやるしか。

「やる、やるんだ」

突撃、突撃。いけ、いけ。

 窓開けて飛んだ。さんまの中へ飛んだ。わたしはどうなった? わからない。だから飛べたんだ。

いつかわたしはわたしを見つけるのだろうか。もう無理だ。わたしはいなくなったから。でもわたしはいる。どこかにいる。いきている。

いきているわたしをみたらこういってあげてください。あなたはゆうなさんですかって。そうするとわたしはこう答えるでしょう。はい? だれですか、あなた。って。

それでも大丈夫。わたしだとおもったそのひとはおそらくわたしです。だからそういう返事に対して人違いでしたすみませんっていって離れたあと、わたしはいきていたんだなってむねのなか、ひとりで感じていてください。それが最後のわたしの願いです。さようなら。

 

 

 

学校のなかなんてわからない。まったくもって潰れている。

 今日学校にいくと閉鎖されていた。「隕石が落ちて危ないよ」だって。

まあ骨というのが見えているね。学校ってこんなんだったんだ。なんかおもしろい。

 俺は路傍の石を拾った。冷たく投げやすい石。遠投だ。俺は肩が弱い。投げ方をしらない。それでも投げた。届けよおまえって。

あたった。学校に届いた。届くとは思わなかったが。驚いた。

まあそれに引っ張られそうになるが俺は考える。学校、痛かったか。俺なら痛い。だから、すまんとか。

 嘘の気持ち。そうやって納得させようとしている。俺は俺のため、すべてを配置させあたまの中でパレード。

 踊る踊る舞い踊る。みんな当たり前に踊っている。自然。わたしのなかで、固く、動かない。

「うおーー」

 俺は投げた。ただ投げた。学校じゃない。道に。

 誰もいない。学校に至るみち。時間は早朝。時々聴こえる行き去るタイヤの音が独りを増長させる。

 死ね消えちまえ。すべてに死ね。

ずっと投げたかった。全てにけりをつけたくなった。

 俺は走り出した。来たるみちを走る。死ね消えろ。

もう俺は止まらんだろう。こけるとかとまるとかあきらめるとか。当たり前にしても気づかないし忘れるだろう。こんな場所でさえなくなるのだろう。ここにおきざりにしてしまう。

 全て簡単な面白みのないただのひとになるのだろう。それがわたしだから。

でも今が何もかも半端もんでなんでもないより遥かな気持ち悪さを保っていることを俺は何度も何度も肌にしみて自らに味わせていたからこそわかるのだ。もうそれがおれにはたえられないこと。期限は過ぎた。俺はただ走るだけ。それだけ。

さよならもこんにちはももういえない。でもそれは確かにおれ。いっているよなにもかも。忘れてしまっただけで。

だからそんなふうだとおもってそれだけでいいから。みんなもがんばっていてくれ。おれは別に忘れていないから。しらなくとも確かなあの場所は失われないから。大丈夫。

あの時の交差とそれからのわたしへ乾杯。そしてさようなら。ありがとう。ただやっていくってやつだ。うん。

 

 

半径10キロ鉄条網、さんまの街。

 

「そんなにさんまが降ってしまったあの街はどうしてそうなったのだろうか」

これが私の議題である。そして我が友アンタルチアの面白みである。

「そんなの決まっているじゃない。さんま祈祷師のさんま欲が高まりすぎてあまりに多くのさんまを召喚し過ぎたのよ。お気の毒に」

キットカットを食べながらの呟きはあまりにどうでもよい体を纏っていた。

「真剣に考えてよ。あれはあまりに不思議な出来事よ」

そうしてわたしは黒板を指差す。『不思議部』。それがわたしこと安斎やすなと中田部すなた別称アンタルチアが所属しているクラブであった。

「こんなに絶好な機会めったに巡り合わないわよ。さあもっとヒートアップ。ヒートアップ」

「そうはいってもねー…」

アンタルチアの口の中にはプリッツが。手にはスマホ。興味なしである。

「なんであんたはいつも…」

わたしの手はプルプル。怒っているのよ、すなた。

「そりゃあ当たり前じゃん」

そういってすなた(アンタルチアの名称はあまりに長く呟きが停滞するのでわたしのなかではすなたということにしよう。そうしないと話しを忘れてしまう)は、入部する際にわたしが提示した盟約書を顔面に示してきた。

「中田部すなたことアンタルチアは不思議部に入部する。ただしその活動においては積極的参加を求めるものでもなくただ座っているだけでよろしい。ようは哲学的幽霊部員でよろしい。だってさ。盟約書によると」

それを言われると困るが。でもわたしは言い返す。

「それでもせっかくいるんだからさ。ちょっとはさ一緒にさやってもいいんじゃない。不思議を思うっていうのはだねなかなにね…」

ストップ。すなたは笛をピーと鳴らした。体育の先生がよく使っているあの笛だ。

「はいそこまで。やすなは一回あつくなると止められませんからね。これぐらいでとまっておきましょうね」

「でも、でも…」

わたしのくちのなかにはキットカット。そういう手は反則だ。

「頭が疲れた時には甘いもんがよろしい」

「疲れてないよー」

「でも立ち上がっていることには気づいていないでしょ」

うげっ。わたしはいつのまにかたっていた。

「大丈夫。いつものことだから」

そういってわたしの肩を持ちゆっくりとパイプ椅子に誘導するすなた。

「ありがとう」

「いいこと」

わたしはただ座ってくちのなかに入れられたキットカットを食べる。おいしい。

「すなた」

「うん?」

「もうひとつ…」

「あったりしき」

わたしは差し出されたすなたの手にあるキットカットを掴みそして袋を開け食べた。

「もうひとつ欲しい?」

「もういらない」

そういう放課後であった。

 

すっかり冷え冷えとなって防寒着一式用意しても寒さに身体やられる時間帯。わたしはただ校内の途切れ途切れの明かりを背に不思議部の部室として使っている空き部屋の鍵を閉めた。

「もうすっかりさむいといったらありやしない」

すなたはひとりでつぶやいている。

「返しにいこっか」

「うん」

 

「でも確かに不思議だね」

 電車までの道のりは一本道。それなりに遠くおはなしにはちょうどよい。

「異常気象っていうにはあまりにおかしすぎる」

そうなのだ。あまりに局地的。

「すなた不思議でしょ。あれはわたしの不思議データベースを顧みてもなかなかの不思議さで」

「だからわたしに勧めるわけでしょ」

「…そうなのです」

すこしあったかい。寒さをわすれるほどじゃないけど。

「あの街にはなにかあったのよ。他にはない特別ななにか」

「不思議データベースの勘は確かだと」

「そりゃあそうよ」

 不思議には絶対的な流れがある。どうしようもなくなにかの末にできあがる。無駄とか間違いとかせかいに引き起こる修正修正の嵐。そういう流れの中でうまれる。発見してしまう。存在しないのに在るなにか。

「そりゃあ気になるよ。わたしでも」

 「当たり前よ。あなたも不思議部員なんですから。それぐらいの嗅覚は持ってもらわないと困ります」

すなたはちょっと笑った。少しだけど。嬉しいのかな。

「哲学的だけどね」

 「あなたには普通の部員になってもらいます」

それがわたしの目標。目指せ正式部員2人。

「それはちょっとなー」

すなたは口を尖らせている。

「だめですー」

「いやー」

というはなしをしている間に駅に着いた。改札口をくぐりそしてわたしたちはバイバイって言って別れた。二つのホーム。方向は反対。わたしたちの通学路。方向が一緒ならなもっと楽しかっただろうに。いつも思う。そしてすなたもそう思っているのかなとか気になる。おもってくれていたらいいのになー。なんとなくそう思う。

そう思っているうちにあっちに電車がきた。ドアが開く。ひとが乗り込む。すなたも乗った。

わたしは手を振る。ばいばいって。

すなたは両手を胸の前にあげて手を振っていた。電車はいく。わたしはすなたが見えなくなくなるまで手を振った。そしてみえなくなってわたしは手を振るのをやめいすへと向かいそのまま座った。電車を待った。しばらくすると電車がくる。電車は止まりドアが開く。ひとはでる。わたしは乗る。笛の合図のあとにドアは閉まり電車は動きだした。わたしはドアのそばに立ち窓のそとをみていた。なにもみえない。わたしのかおだけがみえる。なにかみえたらいいのに。それでもただみている振りをしていた。そうやってただ電車の中を過ごす。ただそうやって。

 

時間というのはあまりに重くわたしには耐え難い。ただ当たり前に息をしているだけなのに明日わたしが視るそれは強く勝てない。

そんなことないだろうし普通のことだろうがそうやって思ってしまうのは本当だ。それからは逃れられない。

 別になんでもできるしなにをやってもいいのだろうがわたしの本当からは逃げちゃだめだ。それ以外にありえない道。それはあるから。あるならば。

 

 常に出来ていないと思う。わたしは逃げているだけだ。そうだからこういうことばもでちゃうんだよね。

やりたいやりたいただしたい。わたしはわたしの確かさをただやっていく。すこしづつできるようになってきている。だからそのままわたしはただ。

わたしのどこにいるんだろうね。かんがえなくてもいいや。わかんないから。

あなたのほうがよくしってるだろうからわたしはただやる。ぶつかっていく。こころのまま。からだのまま。

 

いつかわたしはわたしとしてただなにもわからず純粋にいきることはできるのだろうか。できるだろう。とくになにもおもうことはない。わたしはただやっていくだけ。

 

 

あの街はわたしの住んでいる場所からあまり遠くない。だからわたしはよくみにいっていた。そのときはそういうことができた時期だったのだ。なんてことないまったくわたしに関わりのない出来事をわたしのせかいのなかだとしかわからなくてつきあっちゃう時期。

 付近10キロぐらいからは近づけない。あの街はさんまが降り続いていた。ただよく降る地域としてはしられていたがそれがあんなに降るようになるとは。誰もが驚き話題にしそして忘れ去った。一瞬で忘れ去られた。さんまの滝は局地的だった。わたしたちに近づくことはなかった。その街からでることはなかった。

ただ鉄条網だけが敷かれて放置された一帯。平原、草と土と道路とそれ以外には時々公衆電話ボックス。鉄条網の先、事情を知らぬ者のために置かれた巨大なスクリーンから流れる音声と10キロ先から轟くさんまの街。それだけがその場所のリアルだった。

 寒さと切なさと孤独。ただ座ってただみてただきく。そうして時間は過ぎ去って何もかもが曖昧になっていく。ただそうするしかないけど嫌になる。こんなことしていてもなんにもならないじゃん。もうかえろうよ。

そうやって毎日を過ごしなにも変わらなくそうしていつの日か行かなくなって。わたしは今日にいる。

 

「さんまの街にはいかないの」

 休み時間。ちょっとした10分の。

すなたとは同じクラス。こうやっていつもおはなし。わたしたちの10分の使い方。

「いったことあるの。でもはいれないのあこって」

わたしはスマホに保存していた画像をみせる。あの場所、それからのあの場所の。

「うわあひどいねこりゃあ」

すなたはたまげたなーというリアクションをみせた。

「地元のひととかもいけないのそれって」

「いけないってより…わからないの。地元のひとのこえとか聞かないから…」

だれもいない。孤立。存在しない街。さんまの滝が止んだことですらだれもしらないだろう。ましてやさんまがほとんど降っていないことも。

「なんか不思議だね」

「不思議を通り過ぎてるかも」

わたしがいうことじゃないけど。あの街はあまりにおかし過ぎる。当たり前になりすぎている。まるでわたしたちのほうが不思議といっているかのような錯覚をおこしてしまう。

「不思議部の範疇に収まりきらないねそりゃあ」

わたしが気になるのもそりゃあ当たり前だな。そう合点したようだ。

「でもだからといってわたしたちの議題から外れることはないのよ。これはこの部の一大行事でありますからね」

「そりゃあ大変だ」

 「大変です」

キーンコーンカーンコーン。チャイムが鳴る。次の授業だ。

「じゃあねまた」

「うん」

すなたは自分の席に戻る。彼女の席はわたしから遠い。

わたしは次の授業の準備。ノートとか教科書とか入れ替える。

 先生が来て挨拶して授業が始まる。

ただ話して聞いてノートに写す。そうして時間は過ぎ去っていく。特になんてことなく授業は続く。

 

さんまの街。街にはなにも存在しない。全てが更地になって水溜りと泥が全てになっていて。学校だけが残っていた。

 崩壊。所々が。ここはさんまの被害にあったのだろうか。あっていないだろう。

さんまは街をなくした。すべてをなくした。ひともまちもきおくも。でも学校だけは残っている。軸自体は影響はなさそう。学校だけは生きている。

そうはおもったから。なかを少し探索した。いのちの匂いがあるだろうって。

なぜだろう。学校でしょ。学校って匂いがほど強い。

 一回廃校になった学校とかみたことあるけどあんなに記憶の匂いが強いんだからさわたしは当たり前に思っていた。

なかった。ただきれいでそれだけで。ただあるだけ。それらしきなにかが。

ここは学校なの? うそ、うそでしょ。

 誰かここにいたの? 生きていたの? 授業があって休み時間があって放課後があって下校する。そういう時間はここに存在したの?

なぜ残されたのだろう。さんまたちは全てを消し去ったんだよね。それなのに。なぜこの学校だけ。

だれも生きていなかったのかな。だからなのかな。この街の学校は存在していなかったのかな。

ほんとうにどうでもよすぎて。だから。残っている。

学校は泣いているのかな? 悲しいかな? いくら生き残ったとしても生きていないなら死んだのと一緒じゃん。

わたしは花とかそういうのもってないから供養してあげないと。死んでいるのならそれぐらいは誰かがしてあげないと。

わたしは合掌する。せめてもの祷り。供養。

どうなるかとかどうなっていくとかどうでもよい。わたしはする。だから。

 

ただそのあとも少し歩き回っているとほんの少し命はあった。ゴミ。自動販売機の横。ゴミが溢れている。うえにはひとつパッケージも置いてある。

 誰かがここにいたんだね。会えないしわからないけど。それは絶対に確かなんだとわたしは思った。

 

 

「そういえば最近さんまあまり降らないわね」

すなたはいう。

「だんだん減ってきてるのよ。気象変動の影響だって」

わたしは小説を読みながら答える。

「ならあの街のさんまは最後のサイレンかな」

 珍しいことを言う。

「どういうこと?」

「さんまたちの叫び」

 

こえだったのなら。誰が聞いていたのだろう。みんなおかず代が浮くって喜んでいただけで誰もそんなものだと気づかなかった。

ねえさんま。あなたはなぜそんなややこしい行動をしたの。それならそれでもっと別のなにかがあったんじゃないの。例えば、例えば…。

それしかなかったのね。さんまはただ泳ぐことでしかさんまでいられなくて。まったくの不思議でしかわたしたちと交流できなかった。

あの街はその末も末の出来事だったのかしら。ならばさんまはもう死んでしまうのだろうか。さんまはさんまでしかいられない。それに気づいて…。

 海に泳ぐさんま。泳ぎ食われまた泳ぐ。さんまはただ泳ぐだけ。もう降ることはない。

 

 

 『いこう レッツゴー さんまの街へ』

 部室の黒板には大きく描いたさんまのイラストともにそういう文章がかかれている。

「いこうよやすな」

すなたは穏やかにそういう。

「一大行事なんでしょ。いくら哲学的幽霊だとしてもね、一大行事には少しは参加したいという気持ちが湧き出るの事実なんだよ。だからねまあうん。そういうことだ」

そうして指差す黒板。

「一緒にいきませんか」

 

 手を繋ぐ。一緒に繋ごうよ。ただそれだけだよ。それだけでも一緒にやらない?

まあさひとはひとりだとかわかりあうことなんてできないとかそういうのいっぱいあるだろうけど。わたしはさそれでもさ、いやだからこそさ大事だと思うよ。わかりあえなくてもひとりだとしても手を繋ぐひとがいたのならそれだけでちょっとやそっとの出来事が変わると思うんだ。たとえ独りだとしても独りじゃないよね。

だから手を繋ぎましょう。私はいつでも手をだしていますから。だから。

 

 

全部わたしのため。誤魔化しとか嘘とかそういうの。行動とかことばとか。そういうのに凄く絡めとられてる。そういうのから逃れようとしてきたのにまったくもっての距離間。そりゃあない。

だから嫌になる。わたしのいまもまた全部エゴ。自分の気持ち悪さ。他人とか環境とか。弱さに甘えているだけ。

 

わたしはただ歩く。自転車とかそういう気のきいた乗り物もあるだろうけどここにくるのには歩きしかふさわしくないのだ。

すなたはわたしをひっぱってくれる。わたしの嫌さを包んでくれる。手を引っ張ってわたしをまえへつれていってくれる。

わたしは言葉を話せない。難しい。だからすなたが手を引っ張ってわたしに話の機会をつくってくれること。それがわたしにはとてつもなく有難い。

すなたがいないとわたしはなにもできなかった。

「ありがとう、すなた」

すなたは驚く。「なんで?」って。驚くところじゃないよびっくりだよ。

「わたしを引っ張ってくれて」

またすなたは驚く。そんなリアクションとられたらなにもいえなくなるよ。やめてよすなた。

「わたしこそだよやすな」

「えっ」

すなたはこっちをまっすぐ、でもちょっとやさしいおだやかな目でみつめてる。なに、なによ。

「わたしこそなにもできない人間なんだ。口ではなんでもいうしそれなりなんだろうけれど、実際なにもやれていないやつでさ。すなたのやりだしたら止まらないところ、すごく羨ましいんだ。わたしにはそんなことできないから」

 目が透いている。初めてみた顔。かわいい。

「ば、ばかにしてるでしょ。それ」

「そうかも」

すなたは笑う。笑い声。わたしも笑う。笑いあう。響く。そらにも届く朗らかなこえ。わたしたちは笑ってた。お互いに笑いあった。

 

平原はなにも変わらない。少し錆びついた?

「抜け穴があるんだね。驚きだ」

すなたはそういいながらしゃかみこみ通り抜けようとしている。

「そうなの。そこから入ったの。わたしも」

 鉄条網が破られている。人の手かな。鉄条網をみてもわたしにはわからない。

「だれかがやったんならなぜやったんだろうね」

「そりゃあなかにはいるためじゃない」

そういうことをききたいじゃなかったのだろう。よつんばいのすなたは不服の表情を浮かべている。

「よっぽどの必要があったんでしょうね。人生に関わる」

わたし以上の。

「それってすごいことだね。でも…」

 辛く重く。耐えがたい。

ようやく通り抜けたすなたは満足げな表情でこちらを見つめている。

「さあいきましょうか。あの街へ」

 

「本当になにもないわね」

半径10キロの中心にはなにもない。廃墟ですらない。人の匂いのない部分的崩壊済み学校だけがここに街があったことの僅かな手がかり。

「街が本当にここにあったのか疑いたくなる」

おそらくあったのだろう。それだけですまされる。だれもしらないのにあったかのようにこの街は存在する。鉄条網が守る半径10キロの街の存在。ただそれだけのために半径10キロは維持されている。

「わたしはあったとおもいたい」

さんまが降っているところしか確かなものはないけれど。あれに嘘だといいたくない。思い込みかもしれないけど信じたい。

「だれもいないんだよね」

この街は何もかもから忘れされた。ただしっているのはわたしのような存在だけ。この街に住んでいたひとはどこにいるんだろう。本当に街だったのか。

「学校もはいっちゃだめなのか」

 看板。隕石が落ちて危ないよ。

「隕石? さんまの間違いじゃない」

そうすなたはいうが。

「こんな器用なさんまがどこにいるんでしょうか」

わたしは学校の辺りに手を示す。

「サンマの骨わけじゃあるまいし三階の端だけとか真ん中だけとかそんなことわざわざやらないしできないとおもう。あまりに部分的すぎるわ」

「なら隕石なのかな」

どうなんだろう。わたしにはわからない。

「ほんとうにこの街が存在していたかわからないいまこんなこと考えてもなかなか手がかりなんてつかめないだろうしね」

そうなのだ。この街のことなんてわたしは事後しかしらない。ただあのさんまの滝を見にわたしはきていただけだから。

「まあそれでもわたしたちはここにきたんだから」

とにかく学校にはいろう。お生憎看板の割に校門は当たり前のように開いていてたやすくはいることができる。すなたは「これもだれかがやったのかな」といっていたがおそらくそうだろうねとしかわたしにはいえない。以前にも開いていたしずっとその状態だったのかなとおもうことはできるけど。

 

学校は以前より衰えが見え隠れしている様子ではあったがそれに対しおもうことはとくになし。ただ不気味だなとか、もうこのまま朽ち果てていくのかなとかそういうことだけを考えていた。

 

わたしたちは見回った。学校中全て。なにもない、だれもいない。ひとのいのちは自動販売機横ごみ箱の乱雑さぐらい。変わってなどいない。学校はそういう運命を辿っている。

「ここにだれかいたとおもう?」

すなたに聞いてみる。教室廊下机椅子黒板雑巾本教科書職員室体育館中庭屋上。だれかここにいたのだろうか。

「わからない。でも」

すなたはいう。

「いたとしてもおかしくはないとおもうよ」

「なんで」わたしは聞く。そうおもえなかったから。

「確かにわたしは感じなかったよ。ひとなんて」「でもさだからといって誰もいないだなんて傲慢だとおもう」「わたしたちには感じ取れないだけでここには人の匂いが残っているんじゃないかな。自動販売機横のゴミ箱のように」「だからこのまま置いておかないと残していかないと」「だれかこの場所にあるいのちにきづけるひとのために」

なによりここでいきていたひとのために。

 

いくらだれもいなくても街は残っている。わたしが初めて街をみてから三年。それでも街はいきている。鉄条網が存在する限り誰しもに忘れられている限り街は存在するだろう。だからわたしたちはこの街を秘密にする。ふたりだけの秘密。

 

 

「あれ」

わたしも気づいた。だれかがいる。校門に一人。だれかが。

わたしたちは隠れる。玄関の脇からそーとみる。

 長い髪。女の子かな。制服。わたしたちと同じ高校生かな。

「どうしよう」

すなたは隠れながらもしきりに様子を疑ってはいるが女の子は動かない。ただこちらのほうをみているだけ。それだけ。

いつまでもたってもそれなのでわたしはすなたにこういった「いこう」って。

この街でひとに出会えるなんておもってなかったんだから。せっかくなんだから。偶然だからこそ会いたかった。

でもそれはとてつもなく危険なことなんだ。すなたが絶対駄目って言ってるのも当たり前。わたしだってそうおもう。

でも会わないといけない気がした。会わないと、ここで出会わないとわたしがここにきた、ここに至るまでに考えてきたことが無駄になるような気がした。だからいこう。

わたしはすなたの手を握った。ぎゅー。そうなっちゃった。

ぎゅー。すなたも握り返す。そういうことなんだね。すなたの顔を見る。目はこっちをみている。不安。でも手が教えてくれる。不安と勇気。わたしは一歩ふみだす。

そのままただ普通に歩いていく。手を握りあって校門へと歩いていく。女の子はわたしたちがはっきりと近づいているにも関わらず全くと態度を崩さない。ただ学校をぼんやりみているだけだ。

この時点で止まりたくなった。いますぐどこかへ飛んで行きたかった。そうすればもうこんな不安から逃れられるとおもってしまった。

まだまだだなわたし。もうだめだ。

でもさ手、握ってるから。歩いていける。逃げ出さずにすむ。勇気だせる。

わたしたちは女の子の前に立った。女の子はなにも変わらない。

さすがに厳しい。わたしには厳し過ぎる。

そうやってしばらく時間が経ち、

わたしはふときいた。

「なぜここにいるんですか」

 女の子はこちらをむきそして

「憶えているからよ」

と言い残し学校のほうへと歩きだした。

わたしたちはただそれをみることしかできずそのまま時間が過ぎ経ち気がついた時には夜になっていた。

 

 

 『その街は忘れられた。誰しもが知っていたこともあった。でもそれは刻の出来事。瞬間に始まり瞬間に終わった。

それ以前には存在していた街。それ以後は存在しない街。なぜそうなったのだろう。わたしたちは知っている。

ひとがいない。ひとがいなくなった。街をしるこえがなくなった。

わたしもだれもそれをしらない。以前ですら消えてしまった。

もう街はない。誰にもない。もう消えた。

でもなぜかそこにいくとその場所は区切られている。鉄条網がある。なかにはいれない。辺り一面ただの平原。鉄条網がなければそこに気づかない。

なかにもなにもない。ただ鉄条網の中心にいくと学校がある。街の手がかり。わたしはなかにはいった。

でもそこにもなにもない。整えられた机。埃ひとつ落ちていない廊下。鍵の開いている屋上。ひとの匂いがないかたちだけの学校。

でもここは確かに街だったんだ。誰にも語られない、語れるものがいないだけで。

わたしはしっている。さんまが滝のように降っていたあの季節を。とても孤独で辛くて鉄条網のそとで遥か遠くから響くそのおとを聴くしかなかったあの時期を。

 街は潰された。さんまに潰された。さんまは死んだ。海に帰った。もうさんまはいない。さんまは泣いていた。さんまはもう泣けない。

 街に残った学校。一部だけが崩壊。その他一切無事。

 隕石が落ちた。そうらしい。

わたしたちにはわからない。すべてがわからない。街の記憶、人、思い。みんなわからない。

街のそと。それこそがわたしたちにとってのどうしようもなさ。

だから。街があったとしっているわたしたちはいいたいのです。だれかだれかきづけるひと。記憶を。人を。思いを。憶えているあなたにおもいだしてほしい。この街のこと。半径10キロ鉄条網、さんまの街。かつてさんまが溶かしてしまった街を憶えているあなたに救ってほしい。この街に残った最後の存在。学校に残ったいのちを。

 

記 安斎やすな

協力 中田部すなた

 

中原舞はいきている

 

つまらなく耐えられなくただ教室の窓からそとを見ている振りをしているわたし。何か用があるわけでもなくだからといってそれをやめるわけでもなくわたしはただ寒さに震える木をみてなにかを感じるわけでもなく溜息をついていた。

「どこかへいこうよ」

そういう気持ちは常日頃あるのだがどうやればいけるのかわからない。ただ飛び出せばいけるのだろうか。今この教室の窓から飛び降りればせかいは変わるのだろうか。そんなわけない。そうおもうことにしている。飛び降りはわたしには難しい。生きるも死ぬもわたしには恐ろしくわからない。なんというかそういう存在でいなければわたしはここにいられない。わたしは恐ろしくだれよりも弱い。みんなのこと馬鹿にしているしだれよりもわたしが最高だと思い込まないと耐えきれない。いまここにこうやってどうでもよい体を保ちながら座りそのくせとくになにをするわけでもない、なにかをするとなると退避してそれでいてその存在を蔑む。そうやらなければ生活になれない。なれないのだ。

「まだわたしにはなにもかも遠すぎる」

そう思う。ひたすらそう綴る。わたしはただつぶやかず頭のなか、生まれては消える残されているかも知れない文字列をただあぶくの精神で打ち込んでいた。そうすればわたしは救われる。世界でいちばんなにかを知りうる賢者になり得ると確信していた。そしてそれがまったくのゆめでしかなく実態はなにも動かないただそこにいる死んだ妄者であることもしっていた。

そしてそういう風に頭のなかでわたしとそれ以外を作り、行動と批判と反省と適応を全て演技してまるで自分が完璧であるかのように振舞ってしまうわたしがなんて愚かかつ間抜けなことも知っていた。

 弱いとか強いとかそういうくだらなさから抜け出せない。そういうラベルがラベルのまま機能するしかないわたしでいることをまるで喜んでいる。そうすれば許される。わたしがここに停滞することを許される。ここで演じていればいきていられる。そんなことないのにそれに酔っていた。酔うしかなかった。

もしかしたら。そういう風にいつまでもいつまでも芸に興じるものを弱い、というのかもしれない。どこにいるとかなにものであるとかそういうものは誰しも当たり前で特に意味をなさない。だからこそそこに固執してそういう風体を保つ振りをし続けるものは卑怯で愚かでクズで弱い。弱すぎる。

わたしはいつまでも頭のなかをくるくるさせている。星座がどんどん入れ替わる。ほしはゆきゆきていつのまにかわからなくなる。あれはただの線でしかなくいきているということだけでなにかなんてしらない。そうなっていく。でもわたしはただ草っ原のちょっとした丘、周りはほんの小さな森のなかでそこだけはまるで庭のごとくあいていて。そこにいつまでも座っていてあけないというか夜でしかない時空を、ただとおりすぎていくほしたちをみているでしかない。ほしがどれだけのはやさではしっていてもわたしはただすわっているでしかない。こうやってなんでもなく机にいすわるわたしのように。そうすればいきているように錯覚できるから。他者の生きるを借りて生命というものを実感するのが好きだった。そうすればいきてると思い込めるから。

まあこれはわたしの性分だ。抜け出したい、抜け出したい。こういうことでさえそういうもの。そういっていればいきている振りを吸収できるから。どこまでも弱い、弱くないわたしから逃避できるから。いつまでもどこまでもどの行為でさえ振りでいつのまにかわたしはどこかへと消えてしまっていた。置き去りにしすぎてしまっていた。

どうすればいいんだろう。つぶやきでさえ嘘ならばわたしはどこにもいない。かなしみでさえうそならばわたしはどうすればいい。

 考えるな。ただやれ。もう呟くな。ただ吐け。殴れ死ね。とにかくわたしというものに溺れるな。行動でしかなくなれ。絶望できる存在であれ。臆病なのだわたしってやつは。わたしを恐れほったらかしにしてしまっていた。これこそが最大の問題ってやつだ。わたし自身の。

 考えたくないし呟きたくない。知らずのうちに殴られ殺されていた。そういう存在でありたい。

 神経衰弱が強いわたしでいたい。わたしの在りかたを変えたい。ただいきていたい。

もうそのときがきたのかなんていつまでもわからないけど。ただいちばん前のわたしをそのまま実行し続ければいとも容易く手に入れることも可能だろう。それこそが最大的なわたしだからそれならば。

という綴り。わたしの中には溜まっているのかな。わたしはふとした瞬間の湧き。いつまでもわたしのいちばん前といまそこにいるわたしと交錯する。そして掻き回される。わからない気持ち。胸のあたりがなぜか誤差反応。体は動くけれどむねは動かない。脳が混乱している。わたしはどこにいけばいいのかわからない。そういう状態のなかで甘んじ得るほかない。

でもそういう状態こそがここにいるわたしが生きるということなのかもしれない。わたしの知る限りもっとも弱い存在である人間が生きるということはそういうことかもしれない。だからこそわたしはそれを認めてなお生きるということを選択しなければならないのだ。でもこういうことを考えるということですらわたしは演じているということを意識している。演じの上でなのだこの思考は。

でもわたしはそれでいての次にいくことも重要だと思う。誰かがやってきたことなのだ生きるということ。わたしのいちばん前で生きるということ。いまこの瞬間のわたしとわたしの奥底のいちばん前では居場所が違いすぎる。わたしの中ですらわたしは違いすぎる。

なかにいるときは酔っているが外に出た瞬間いつもわたしは自分をなぶる。そしてそれを許容する。その総てが演技でそれをひたすら繰り返す。

でもいまはそれでいいんだ。いまのわたしはそれだから。いつの日かいちばんまえのわたしまでこの思考の連続が充たされたとき辿り着いてわたしはとにかく激しくいきてそして死ぬことができるんだ。果たしてそれができるかどうかなんてわからないけどわたしはできるならばそうなりたい。なっていきていきたい。

そう考えているうちにいつのまにかチャイムが鳴り授業は終わる。わたしは号令に従いただたち礼をする振りだけをしてそのまま座りそして頬杖を突きながら周りをみていた。よしのちゃんってあぱずれだって。よしだくんはかみのけぼさぼさだね。ほくろのかずがひゃっこあるとちちんぷいぷいでれるんだって。そういうはなしをただあたまのなかに通していた。満足。演技のなかでの満足。偽りだろう。わたしは溜息をつきそのまま寝ている振りでもして過ごそう、次の授業までを凌ごう、そう思い込んで実行しチャイムが鳴るとまた立ち上がり礼の振りをしてそのまま授業を聞く振りをしながらただ座りそしてときおり好きということにしているあのひとをただみたりえんぴつがわたしの誤作動で落ちてしまう振りをしたり髪の毛を払う振りをしたり眼をさする振りをしたり眠たい振りをしたり窓のそと、用はないけどただなにも感じるわけでもない寒さに凍えて震える木をみている振りをした。

そうやってこの退屈な時間が過ぎ去ってまたいきているという称号が得られてご満悦するそういう振りを手に入れるために。ただそれだけのために振りをし続けて中原舞はいきていた。いきつづけた。いつまでもの繰り返し。なにもかも繰り返し。そういう思考ですら。嫌になることも。どうしようもなかった。これですら。本当にどうしようもなかった。まあそれでいいのかもしれないが。それでも嫌だった。はあっ。溜息。溢すしかなかった。

 

 

窓。窓のそと。わたしはみないし意識しないがみているわたしがそこにいればなかなかいい引きこもりを演じられるのになとか考えていた。

べつになんてことなくわたしがわたしになるとこうなる。ほんとうになにをすることもない。なにかしていたかもしれないがわたしはなにもしたことがないのでわからない。わからないをただつぶやくことこそが世間だとか出来事に対するわたしの立場というやつなのだろう。なんとなくそうおもっていた。

 果たして果たして今日もただ倒れてまるでいきているかのように見せかけてくれるネットの流れに紛れ込んでその称号を手に明日までの退屈さを過ごすのであろう。そう考えても考えなくてもわたしは特になにもおもわない。昔も今も明日も。ずっとずっとそういう調子だったんだから。そうとはいわずともわたしはそれを楽しんでいるのだからなにも悪いことはない。わたしの現状にいつまでも相応しい現実ってやつなんだ。そんな単語こんなわたしにはあまり不確かではあったが。

そういう思考をただ積み重ねていって、積み重ねるしかない。現実って浮いているのだろうか。他人が造り上げたそれ。わたしと同年代の彼らたちもそういう認識のなか戦ったり流されたり色々しているのだろうか。そういうことはいつもこころのなかで後ろめたく感じてしまう。わたしは戦っていない。戦う振りをしたままいつまでもごまかしてきたからとてもとても罪悪感を抱えていきていた。

でもそんなこというまでもなくわたしではなく、もちろんそれを含めてのいまのわたしではあるがわたしの行動とか場所とかそういうものは揺るぎようがなくだからこそ認めてわかり信じられるようになったときにわたしはなにもおもわなくなるだろう。この感情を全て溶かしてそれでいてまたべつのなにかを育んでいくのだろう。そうやってただなにもないせかいで生きている振りを選択したように振舞って、振舞って…。

 選択。なんだろう。選択。

 選択なんて本当にごく僅かな細い糸がうまく絡まりひとつになった瞬間に爆発しておこなわれるものなのに。そんなものがごく簡単にいとも容易く行われるなんて絶対ない。

まあ実際は簡単なんだ。本気で生きて生きて生き抜いていたならいとも容易く何度も何度も選択できるだろう。それぐらいに死に絶えたなら迎えられるだろう。選択の糸を見事に絡められてそして祈りをちからにできるだろう。

わたしは選択したい。選択してそして力にしたい。

 布団の上でただ綴るわたし。ちっぽけなほんの少し広い一人部屋。動くわけでも止まるわけでもないそういう振りを忘れてもなおただいる中原舞がそこにいた。

そして溜息。彼女はいつまでもそうしていた。ただの繰り返しだった。

 

 

わたしは走っていた。走っていた。走っていた…。

そう綴っているだけだった。もう嫌だ。わたしはスマホを投げる。ただそうやって綴っているだけ。だけなんだ。

 走る。飛び出す。ドアを開け階段を降り水筒にお茶を入れ服を着替え靴下を探し歩きながら玄関まで行き靴紐を結び歩きだす。

とにかく走った。たとえ違うともまだそうなのだ。わたしとわたしは繋がっていない。まだ遥か遠くそれ故ばらばら。意志が、それを意志と名付けていいのかはわからないが、薄かった。意志になるまでまだこの気持ちを積み重ねる必要がある、そう考えた。

 考えた。わたしはこの言葉が嫌い。まるでなにか意味のあるものを脳、はたまた腕で描き造り上げたようで嫌い。わたしのなかでの使う考えたにはそんなものがはいっていない。わたしのなかでただ瞬間的な出会いの充しなんだ。少しずつ要素をかたちにしていく、そこまでのかたちの欠損を埋めるそのエナジーというか、単純かつ簡単には言い表せない。考えたという言葉もまたまだわたしには考える要素が含まれている。わたしが今使っている考えるには別のことばが言い表せると思う。でもわたしはまだそれをしらない。だからいつか出会えたらいいなと思っている。そして考えるがほんとうの意味での考えるになれたのなら。わたしはそうおもっている。

わたしに言葉は難しい。だからことばを使わせてもらってる。このことばをとにかく呟き綴りいつのひか言葉になれる日が、いやわたしはまだ言葉に嫌悪感をもっているわけだけどこれを消化し自らの糧としてあしたに進めたのならその時はよろしくと嘘でも呟いておく。これは未来へのテーゼ。私自身を許すための。いつまでも劇。これを壊す、意識できないわたしになりたいか。なりたいと思わずただそれに溺れている。それですら破壊する当たり前さがわたしに欲しいとなると嘘になる。嘘とうそ。なにが嘘かなんてどうでもよくなるほどの。

 生きたい生きたい生きたい。激しく叫びたい。わたしは叫ぶ。こえは響くが一体どこに届くというのだろう。わたしはこのこえにすら嫌悪する。まったくの幻のあなたが拾ってわたしを慰めてくれる。そういう願望が篭ったこえ、そしてその上で積み重ねるこのこえ。いつまでも劇。繰り返し繰り返しわたしは繰り返す。中原舞は繰り返す。中原舞劇場にようこそ。お代はいりません。寒空の下とくになんでもないがやっています。別に見て欲しいとかそういうのありません。ただやっているだけです。それだけです。まあみてくれてお金とかそういうもの落としてくれたら生活が楽になるので嬉しいですけど。けどやっぱりそういうのも含んでいてわたしは嫌になりますね。早く越えたいですね。それだけです。はい。

そういうことをやっているわけではないが、やはりわたしはそうなのだ。そうでしかなくはやくはやく越えたい。このみちを越えてそのさきへ、はやくはやく。

でもそうじゃない。ただ歩き歩き、一歩一歩ただそれだけをただ。それでしかあり得ない。なにをしようとも思おうともわたしはただわたしを歩いているだけで問題はそれをはっきり認識しているかどうかということだけだ。わたしはしていない。そういうものが確かなやり方なんだろうなとは思っているがただそれだけで。まだ身体に染みこんでいなかった。わたしは戸惑い狂い悩み壊れてそれでもなおいきる。その経験をとにかくする必要がある。わたしはそう強く思っているが。果たしてそれが果たされる要件とはいかなるものかとなると暗礁と今までのわたしは考えていたがいうまでもない。ただわたしはわたしを歩いている。それしかないのだ。ないんだ。気づくに値する経験をするまでわたし中原舞はゆめとうそに惹かれて失望しそれでもまた惹かれるということを繰り返す。そうしていつのひかわたしに近づいて、いわゆるひとつの、いいたくないし嫌悪しか浮かばないが、大人になるんだろう。それに気づき、いや前からわかっていたのだが、どんどん色々を吸収したうえでわたしはそこへと辿り着くんだろう。最初、言葉に私に大人に、なるんだろう。

 

 

 誰かに会いたい。私には誰もいない。いままではいたがいまがいない。

わたしは会いたい。あなたに会いたい。誰かに会いたい。

 簡単だ。会いかたはいっぱい。電話でもすればいい。して欲しい人はいっぱいいる。いまのわたしみたいに。

でもしない。うそだから。まやかしだから。ないに等しいゆめ。信じられない骨だけのうそ。お肉のないチキンです。骨でもペロペロ舐めますか。虚しいね。お肉くいたいね。お肉ってどこにあるの。歩いている? 飛んでいる? さかなくん? わからない。そういう塩梅ですので骨でも舐めておきます。空腹満たす唯一の方法です。教えて。お肉のありかを教えて。なんでもします。だから。

 関係。関係が乏しい。ひとと繋がっていられたならそんなに幸せなことはなかった。偽りだとうそやゆめだと深く信じ込んでしまったわたしには遠くなった。自然な関係であるには遥かに永い歩きが必要となった。あなた、あなた〜。わたしは会いたいよ〜。あなたと会いたいよ〜。そこにいるあなたと会いたいよ〜。手を伸ばしたら握手できるのになんでわたしは月を3周金星を一回りそしてブラジルに不時着してそこからトライアスロン。カナダまでいきそこで牛の乳飲み日本へ坂道ダッシュしないといけないの〜。理不尽だよ〜。さんまくって滅亡するぞおら〜。

ってなこといっても仕方ない。わたしはやるしかないのだ。いまそこにいるあなたに会うために。まあ辿り着いた時にはもうそこにはいないっていうのもしっているんだけどね。なかなかにつらくあほうなわけだけどそれがわたしのほんとうだから仕方ない。いつまでも時間差恋愛を続けるまったくの反転でくのぼうが中原舞ですから。ただやっていくだけですよ。ええ。

まあそうはいっても自然に手を繋げたらなーとはおもいますよ。あたまの中でそこまでの軌跡を描かないとわたしはいけないだけで。いや違いますね。わたしにはない部分をひたすらしっていてだからこそそれを蓄積していっているだけなのかもしれません。わたしにはほとんどなにもありませんでしたから。あなたたち、彼らたちの描いた虹をみてわたしはそれらしきうそとゆめを信じ込めたのですから。だからわたしはこうすることができているのかもしれませんね。ありがとうございますわたしのうそとゆめを描いてくれたあなたたち。わたしはいまあなたたちの人生と生き方をあたまの中で少しずつ綴り呟いている最中です。あなたたちのちからを知っている最中です。だから、だからいつのひかあなたたちのふもとまで辿り着けたのならその時は握手してください。わたしのことなんて知らないでしょうがはるか遠くからただ歩いてきたわたしを迎えてやってください。そのときがどうかなんてしりませんけど。それをやってくれればわたしはいきていけると、そうおもいます。ほんとかな? わからないけど。こう呟いている最中になに思っていたか忘れてしまったけれど。まあわたしはやっていくということです。中原舞はただやっていきますよ。ええ。

 

いやあくじらがなぜか海辺にいるといいますからみにいきますよ。海からはここは遠いんですけどね。なぜか気になる中原舞ですからいきますよ。

 

いやあこれは見事なくじらだ。なんてみごとなくじらだ。でかすぎてわたしには把握できない。このくじら、そらとびそうだな。そらとんでひこうきぐもになりそうだな。こりゃあまったくなくじらだ。天然記念物だなこりゃあ。

「ゆうなちゃんじゃないか」

はい? なんですか。こしょうでもふりかけようか。

「おれのことわすれたのか」

赤い姿に見覚えなし。

「おくとちゃんだよ。たっちゃんだ」

たこか。今日のばんめしたこ焼きだ。

「おれはたこ焼きにはふさわしくない。旅をして生まれ変わった。たこつぼに入る人生をだなー」

たっちゃんとやら。あんたにはたこ焼きが似合うと思うよ。一回大阪にいってらんしゃい。あんたをみた瞬間たこ焼き業界は競り落としで通天閣破壊しちゃうだろうね。ほんとに見事なたこだから。間違いないから大丈夫。たこということに自信をもって。ねえ。

「ふふふ…。あんたのいってることは間違いさ」

「間違いってなによ」

むかついた。ぷちんときた。おいしそうなたこがなにをいう。成敗してやる。

「ははは。ゆうなちゃんには届かないよ。わたしはオールパーフェクトなたこだからね。だれしもがおれというものにはひれ伏すのさ。当たり前さ」

そういってわたしの頭のうえにのるたこ野郎。

「やめろ〜」

「ははは〜。ゆうなのあたまのうえは最高だ。玉座だ、玉座がここにあるぞ〜」

 「だれだよゆうなって」

「じぶんの名前も忘れたのかい。あまりにあほうなこだな〜ゆうなは。かわいがってあげよう。よしよし」

そうなでるが。

「気持ち悪い。いますぐやめろたこ野郎」

ぬるぬるしたからだ。触るなんてとんでもない。なぜあたまのうえにのぼってやがるんだ〜。

「わたしの名前は中原舞よ。はやくどいて〜」

 泣いてしまう。はやくどいてくれお願いだから。

「嘘だろ。嘘だといってくれよジョニー」

「なにが!」

こいつはぬるぬるしなくなりそしてこういった。

「この座りごこちは忘れない。ゆうなだ。ゆうなにちがいない。ゆうなじゃないんだったらいったいおまえはだれなんだ」

「中原舞よ」

しゅわー。たこが溶けていく。

「まだまだだったのかおれは。だめだめだおれってやつは。まだ足りぬ。実感した。ゆうな。久しぶりの再会楽しかった。また会えることを切に願っているよ。じゃあな」

そういってたこは私のあたまのうえから溶けていなくなった。一体なんだったんだ。いまの出来事は。

 

なんかこんな出来事が起きちまうとくじらなんてどうでもよくなったよ。なんかくじらそらとんでるけどどうでもいいよ。とにかく勝手にやってろよ。それぐらいだな。うん。

 

 

 眠たい。眠たいとわたしは寝る。少しでも眠いとすぐに寝る。睡眠不足がわたしのある時代を飾っていた時期があった。象徴。だからなぜかそういうことになっている。眠らないとわたしは生きられない。当たり前だがだからこそ。それ以上にわたしは神経質に意識した。もう違うくなってもそのままただ置き去りにして眠っていた。

 今日からの起きはもう気にしなくなっていくだろう。いままでの睡眠はもうはるかむかし。意識することなくいきている。そういつしかして。ただやっていく。

でもまあ何回も可能ではない。よく眠りよく起きましょう。

 重い言葉だな。本当に含んだ言葉。わたしにはまだ遠く。いま一度よく起きるを体験しいきていかなければならない。それを体験してようやく呟くことも可能となろう。はてなにを。よくわからず呟いた。まあそういうときもある。というより常にそうなるのが望みであり先でありだからこそではある。

まあそうやっていくこと。それだけ。うん。

 

 

さんまを食べなくなって久しい。この街にはさんまは降らずそうでもなくてもわたしは食べることはなかった。

 降ってくるさんまなんてばっちいわ。食べたらいけない。あれはだめなさんまよ。

そんなことなんてない。さんまはおいしいよ。わたしは薄くともそういう気持ちではあったが母はそういう。どっちでもよいわたしの皿の上にはさんまはない。唐揚げかつサラダ。さんまはどこかへ消え去った。

おーいーさんま。そう呼ぶこともない。偶になにかを恋しく思ってしまう時期はあるのだがさんまにそれはなかなか訪れなかった。訪れずこの時期まできてしまった。わたしのくちにさんまはこない。いつかくる時があるのだろうか。母の反対を乗り切りさんまを食うときが訪れるのだろうか。わたしはネットで検索したさんまをみる。ぎょっした目。わたしになにかを感じさせる。さんまは魔術師か? そうならば。

さんまは食うところまで来ない。こうやってネットで検索することすら当たり前で辿り着かないはるか遠き食材。わたしにさんまは遠かった。まだたりていない。さんまを食うための綴りが。

さんまよ。ごときではないがさんまよ。ネットにて光る目をしたさんまよ。いつかわたしがおまえを食いたいと思ったときは食われてくれるか?

「ギョッ」

そういうこえがきこえたきがした。これで安心してさんまを食える。よかった。すっと落ちた。いやそんな悩んでもいなかっただろう。嘘の綴りだねこれ。だめだこりゃ。

まあでもほんとうにさんまくいたくてよだれ垂らすときもあるだろうからね。だからこそ意味はあるとおもうよ。うそじゃないよ。将来的投資ってやつだ。うん。

 

私にはほど遠く関係なんて結びつくことなどまったくのあほうなゆめ。物語するとおなかが減ったねなにかくいものあるか。あるぞにおいがするぞ落ちてるぞ。さんまだ。なまだ。うげっ。

でもくうしかない。わたしのおなか限界だ。くちのなか、はいってる。まるのみさん。おいしいか。わからない。においだけ。腐りのにおい。わたしのからだがくさっちゃう。

ってな関係しか結べないよ。まったくのゆめだ。そうだ。そうに違いない。

でもなぜかわたしとさんまが結びついてしまった。ただのひきこもりのわたしとなんでもなく海を漂うさんま。出会うはずのない存在が出会ってしまった。

ほんとうか。ほんとうなのか。わたしにはわからず。ブツブツ呟き本当かどうか確かめる。さんまとわたし確かめる。

さんまを食ってさんまを視てさんまとねてさんまと繋がる。わたしとさんま確かめる。

ただそれだけ。それだけをやっていく。わたしとさんまやっていく。中原舞はやっていく。ええ、やりますよ。それだけです。

 

さんま市場。さんまは強くなったのか。弱くなったのか。わからない。わたしは漁師でもないしさんま愛好家でもない。その手の話題には弱いのだ。

かつてさんまで食費があがったのもいまはむかし、家庭の食費は火の車。さんまはおかずにならなくて。そのうえさんま中毒せかいじゅう。さんまにさんま。世のさんまは食いに食われ絶滅寸前。それにさんまを愛する委員会は大激怒。世界の政治にもさんまの涙が降り注いだ。世界中さんまの嵐。もはやそらからさんまなんてゆめのようなはなしで、それなのにせかいはさんまの影響を受けていた。もう逃げられないのだ。さんまはあまりにわたしたちと密接になってしまっていたのだ。さんま愛好家によるテロ活動。さんまのいのち、さんまを食いたいものによる市場の乗っ取り。

だからなんだっていうのだ。さんまがくえないからといってわたしのせかいを破壊するまでに至っていない。わたしがせかいをしったときとさんまがせかいを煩わせてしまってからのいままでのせかいのどこが変わったというのだ。ただあのときから何も変わらないいまここにいる中原舞がいつまでも続いているだけなのだ。確実に影響していてわたしの首をどんどん締めていくその現実自体はわかっていても果たしてそれがわたしのこころを直接揺さぶるかというと違うかった。わたしにはなにも影響がない遠い出来事。たとえそれが嘘だとしてもそう思い込めるほどにわたしの住むせかいは遠すぎて麻痺していた。どっちが嘘かなんておもうこともなくわたしはただ暮らせていた。ただそこにいた。息をしていた。

でもだからといって中原舞のこころの神経は緩くどすく確実に削られていっていた。奥底にどんどん溜まっていく。切り落とされた神経が沈みゆき少しずつ腐っていきながら混ざっていった。溜まる。わたしのなかに溜まっている。遅れたわたし。みなが謳歌している。最悪という祭り、起ち上がるという祭り。再生という祭り、損失という祭り。記憶、かたち。彼らの損失。わたしはしらなかった。いまここにいたから。彼らの物語をただみて、それだけで。ただみていただけだった。

さんま。さんまよ。あなたはなぜさんまなんだ。なぜ海を泳いでいるのだ。なぜそらから降ってきたのか。なぜ降らなくなり、海へともどったのか。さんまよ教えてくれ。わたしには遠すぎて答えなんてあまりに嘘だから。あなたに教えてもらわないとなにもいえない。わたしはただここにいるだけ。もうどうしようもない。

どうしようもないのだろう。酔うか酔わないか。みんな酔っていた。酔って酔ってさんまが

食い散らかされた。当たり前だった。そういうものが普通だった。いきていくものだった。

わたしもいきたのならそうなっていたのだろうか。まだまだ遠いいきるというもの。それの強さと儚さ。わたしはわかっていたから傷付かない方法、それもまた嘘だけど、いきた。そして損失した。物語の損失。彼らの損失。わたしの損失。中原舞の損失。せかいの損失。ことばの損失。損失。確実にわたしもさんまにヤられていた。損失した。

 彼らが彼らの損失を謳うならわたしはわたしの損失を描かなければならない。とにかく呟き続けなければならない。損失はエネルギーに満ちている。先人たちの血。生きる、によって描き込まれた生命の痕。とにかく感じ吸収しちからにできる。あしたへときょうへと進むことができる。わたしは生きることが可能だったのだ。生きられないなんて嘘だった。かつてもここには降っていた、さんま。降っていたんだ。さんまと遠いこの場所にもさんまはいるのだ。さんまはいきていたのだ。たとえ泳げなくともそらから降ることはできたのだ。

わたしはさんまのことを少し見直した。わたしという場所にさえ彼らは存在を与えてくれたのだ。生きることができる物語をくれたのだ。さんまはわたしがおもうよりはるか上空をとんでいた。あんまりに高すぎて低く見えていたのかもしれない。別にそんなことおもっていない気はしたがまあいいだろう。とにかく敬礼。それだけだ。うん。

 

 気づき。あったとしてもそうだとしても越えられるかどうかはまた別の問題で。それが果たしてなんなのか。わたしと繋がる、繋がっているといわれるそれに求めるもの、求めたもの。それがなんなのか。剥離か密着か。わたしにはわかりえないことだ。今日にそれはわからず気配だけをもち常明日に殺されてしまう。それがわかるということだった。

さんま。さんまを越えるに必要な中原舞の情報はどれぐらい。もう足りた? まだ足りない。どうかしら。気配だけはあってそれは確かだけどどこまでも深くわたしと密着できるに至る体験の量が足りないからまだ感じることができなかった。

 情報。記憶。きょう、あした。あさってはかに座。しあさってはなに? そういう情報も必要かしら。そういう情報もまたなにか必要かしら。みんな足りなさすぎる。あしたにいくためのきょうをいきるためのきのうをおもいだすためのかこを辿るための情報をわたしは綴る。とにかくやっていく。ただやっていく。それがわたしといういままでの情報。またそれも綴ってあしたへと進む。進めなくてもただ綴っていく。それだけであった。

わたしの体重は綴らなくてもいいんだ。それでいいんだ。いいんだ。うん。…わかってます。綴ります。あなたにはみせませんよ。わたしだけの秘密です。わかりましたか? はい。

 

もうさんまは絶滅するかもしれない。庶民には程遠いさんまとなっていった。わたしはまださんまにゆめなどもてない、自分を楽しくだますに至る情報を取り入れたり綴れていなかった。はやく、はやく綴らないとわたしとさんまの遠さよろしくさんまが世から削除されてしまう。その前にただ綴り取り入れやっていかなければならない。

たださんま。さんま天国。さんまの缶をおいしく食べる。さんまのギョロっとした目。イカす目。ナイスだぜ。

 生のさんま。臭い。食べれたもんじゃない。川に投げ捨ててやる。おりゃーってな具合てなぐあいに回り落ちて消えるぞさんま。なかなかに爽快であった。あっぱれ。

 綴りさんま。さんまに辿り着くために。遠いね。いつになったら着くんだろうね。こういうこといっているのは序盤なんだよな。調子付いてどんどん進めるようになったときにはそんなこと浮かばない速さでそれ以降はもう疲労困憊はたまた脂のりだからね。まぐろじゃないけどねさんまだからね。うん、ただやっていこう。それだけだ。うん。

 

あしたになって今日を省みたならなにをおもうだろう。こんなに不自然で不出来でもあしたのわたしがみると特になにをおもうこともないただの流れとなっている。そうならばやはりただやっていく。それにつきるのだろう。どうなったとしてもただそのときを強く確かに綴り込む。ただそれをそのように。ガシッ、ガシッと。それをやっていけばいいのだろう。居場所とか在り処とかはわたしが考えなくとも勝手に位置しているのだからとにかくとにかく打ち込んでいくことが重要だ。それだけだった。

 

食べものが虚しい。食べることが虚しい。ただ綴られただけ。なにも一緒ではないか。ゆめとうそがなくなっている。わたしはたべたことがなかったのかもしれない。ゆめとうそをたべていただけで食べものとか料理など一度もたべたことがなかったのだろう。それだけをしると特にもうなにも食べる必要はない。管の中栄養だけを通していきていけばいい。そうおもうのも別におかしくないだろう。

でもわたしはまだ溶けきっていないうそとゆめ、はたまた忘れることすら忘れたあまりに地面の下の業務作業にストップをかける、そのやりかたをしらないわからない覚悟がないその程度のいきかたのせかいをいきているからだからまだ食事というやからを続けていた。おいしいとかまずいとかむなしくどうでもよくただくちに運びそしてこの思考をあたまのなかで流しながら酔っていた。酔うことによって自分を認めさせていた。そうしていつのまにかよくわからず溶けてしまう。おでんのなかに溶けてしまう。わたしによくわからず呟かせるそういう呪いを掛けさせて、わたし自身がうそとゆめになり中原舞はいなくなってしまう。誰も気をとめないしわからないだろう。随分前からいや最初からわたしなんて存在していなかったのだからどうなったとしてもわたしは大丈夫なんだろう。だから安心して、しなくとも特になにも起こることはない。そうしていつのひか腐ってしまい本当にわたしが溶けてしまいなくなってしまう。もうなにもわからない。わかりすぎてわからなすぎてなにもない。そうして中原舞はきえてしまう。すべてを忘れてきえてしまう。とくにそういうことにすらなにもおもうことなくただ過ぎ去っていって、うんもうべつになにもない、そらからさんまが降ったりくじらが飛んだりかにが泡吹いたりそういうことはなんでもなく起きたり起きなかったりというのもなんでもなく通過して中原舞がいきているということも通過して大人になった誰かのつぶやきはせかいにみえず溶けていくのだ。そうしてもなおせかいはうそとゆめによって存在しつづけるのだ。否が応なく。残念でも幸福でもなくただ続いていくのだ。わたしたちが息をし続ける限り続いていく。ただそれだけなんだ。そういうことだった。泣いても笑ってもそう。どうしようもなくてもそうだった。笑っていよう。それも意味をなさない。当たり前すぎて通じなかった。だから、もう、なんでもない。それだけだった。それだけでもそれ以上の何かを存在させられるのか。存在というものなど価値させられないせかい、必要なくあるとしてもあるのならまったくべつのせかいになってしまいだからこそそこにはなにも存在せずだからわたしはそこにいるかもしれないのか。わたしにはおそらく言葉とか場所だとか認知できていないだけだろうが薄すぎる故にそういう場所にいれるのか。そしてそういう場所は嫌が応なく存在せずわたしはせかいにいなかった。ただの背景に、それにすらなっていなかった。そうして日々をただ綴りわたしはいつのまにか消えていく。中原舞は繰り返す。何度も何度も繰り返す。そうして中原舞は定まっていく。ひとりの中原舞として集約していく。その結果としていまここにこういう中原舞がいた。最低限その瞬間瞬間を乗り越えられる最大の中原舞の可能性の末にうまれたいま現在の中原舞。そしてそれは中原舞個人が受け持つ可能性ともいえる。中原舞個人の存在のありかた。それはだれもわからなくどうすることもできないが確かにあるのだろう。わたしとははるかに遠くとも定まっているのだろう。そしてそれは気にしなくてもとくに問題ではない。なんでもなく絶対なのだから。てきとうにやればいいのだ。それでさえこれでさえ定まっているのだから。

 

わたしのふとんは破れている。ただ破れているだけだからそのまま不便さを内在させながら使っていた。まあ使いにくいがだからと言って変えようとか縫おうとか新しいもの買いにニトリニトリに布団があるのか定かではない)にいこうとかそういうのまでは進まなかった。そういう当たり前さはほんとに底と底をしっているやつにしかできない上級者の選択で至っていないものはすぐバサバサ判断するか、まったくの不感でいるかのどっちかでしかいられなかった。だからわたしは現状に相応しい位置の如く不感的未熟者の判断(最下的未熟者には判断など存在しないが)をとらせてもらっていた。

だからといってふとんの半分近くくらいまで破けて中のわたらしきものがわたしを侵食しようと攻め立ててくる現在判断をしなければならなかった。

 縫うとかそういうのはわたしには気の遠くなる話であるし、手芸のちからを身に付けたいとかそんなのないしだから育てるとかそういうのまったくのなしとなるのでわたしはあっちの部屋の押入れのなかのふとんをだそうかなとかかんがえた。あるかなふとん。確か…。

 死体。黄色く固まっている。ただ寝かされそのまま寝ている。動いていた、その可能性はゼロじゃない。わたしはしっかりみていなかったから動いていても不思議じゃない。そうだとしてもなんの問題があるのだろうか。わたしは別に構わないじゃないか。死んだらなぜ動いちゃだめなんだ。死んだら止まり黄色くならないといけないって誰が決めたんだ。べつにいきしてもいいじゃないか。話したり歩いたりテポドンのスイッチ押したりなにしても構わないじゃないか。死んだとしてもそれぐらいしてもいいじゃないか。いままでいきてきたんだから。

なかなかにそういう記憶はわたしにとってなんだろうとふと出会ったときに考える。こんなところの意味なんてわからない。わたしにとってなんだったのかわからない。大切なそんななにかがなにであったかなんてわたしにはわからない。わたしの目というものは悪くそれでなくてもどこみているのかわからない。あなたたちはみえているのだろうか。わたしとは違うもっと確かななにかがみえているのだろうか。それともわたしとおなじでなにもかも存在してるかあやふやなそんなせかいがみえているのだろうか。教えて、教えてだれか。わたしに教えて。お便りまっています。中原舞宛てにだしてくださいね。住所はわたしに会ってストーキングしたらわかります。だからだしてください。お願いします。

 

なにを綴っているかとか描いているとかどうでもよくてわたしはただやる、それだけが感知できるところであって。わたしの居場所、わたしのありか。そういうものがおおきく海原を漂う船のごとく定まっていて勝手に造っているんじゃないか。わたしの存在をみているんじゃないか。そうおもう。

だからただ綴るだけでそれだけでいいはず。わたしはそうして殺されたり殴られたりなぶられたり色々にあうだろうがそうでしかいらないしそうであるべきなのだろう。そういうことがいきるってやつなんだから。感じられるから。だからこそ。

 

「ああ…」

あぶく。あわがでる。沈んでいく。そういう想像でさえむかしのはなしでいまはなにをおもうだろうか。はてはて。

「さんまが降った街。大量に降った街。街は潰された。街は消えた。それなのに。なぜか存在して亡霊はそこを訪れる。もし気づいたらあなたはそうだろう。囚われの娘なんだろう。そうなんだろう。だからしっかりいきてください。それだけです。はい」

ボイスレコーダーから流れる音声。だれのこえなんだろう。おんなのこのこえだ。わたしより少し若いちょっと掠れたいきたこえ。

 中原舞はいきている。ここにいる。存在している。そうだとしても。わたしのなかにだれかがいるなんて当たり前のことだろう。わたしになるまでにちいさな様々が存在していたなんて当たり前なんだ。いつしかわたしもそうなる。中原舞もそうなる。ここにいても中原舞は息をしていても中原舞はいきていてもただそれだけで意識はされなくなる。ほかのだれかの一員として存在する。いまもそうだろうがまだ意識はわたしに存在していてだからこそいまここにいるわたしはできる限りの中原舞のスピードで可能性を紡いでいかないといけない。そうおもうのだ。たとえ誰かの一員だとしてもそんなの関係なくわたしは存在している。意識がある。だからいきる。それだけなんだ。

だから、だからこそ。わたしのなかの彼らのこともしっかりと紡いでいかなければならない。わたしがいきていられるのならそれは彼らの功績でもあるのだから。わたしの様々な要素は彼らひとりの居場所そのものなのだから。しっかりとやる。わたしは綴る。そうして中原舞はいきていく。いつかわたしが意識されなくなったとしてもただやっていく。それが中原舞という存在であった。いまバナナオレを口にしてなぜか懐かしいとおもっている中原舞であった。あのときの彼女への感情を想う中原舞であった。たとえそうだとしても延長線上でしかなくてそれでもわたしはしっかりとバトンを握り締め新たな次元として別の要素も抱えてしっかりといきていける、そんなきがしている中原舞であった。どうもこうもないが中原舞はいきている。いきていく。そうしてただ時は過ぎていっていつのまにか大人となったとしても中原舞はいきていく。たとえ意識されなくなったとしても中原舞はいきていく。ただそれだけであった。そうであった。うん。

 

 

 

 

有馬明音にまつわる世間話

 

わたしと認められる世間話とはどういうものなんだろう。そもそも世間話の確かな意味をわたしはおぼろけにしか感じられていない。ふもとの辞書をみて確かめる。当たり障りのない世の中の一般的な話。気のおけない雑談だそうだ。確かに込められた意味というのは。

 当たり障りのないわたし有馬明音の一般的な話。きのおけない雑談。はたしてそれがいかなるものがひとによりときにより変わるだろう。わたしの中でも常にあたりまえのわたしなど存在しないから問題ない。わたしは当たり障りなくわたしをぶつけたい。常にそれを心がけているから当たり障りのないわたしというものはそういうものになる。だからこれからどういう展開を演じていくのかどういう存在であってしまうのかまったくの不透明さではあるが有馬明音という世間のなかにいるただひとりの当たり前の少女の世間話を聞いていてもらいたい。それがいまおもうわたしの願いだ。だからきいてくれたらよかったねとかおもうしそうでなくとも話せたことによって明日にいける、そういう気持ちをえられるから別になんてことない。 ただ話すだけだ、それだけだ。

 

わたしはいきていた。ただいきていた。はしっていた。そうなのか? わからない。でもわたし自身のことばには血がこもっていた。吐く息がこもっていた。白い息がことばに注ぎ込まれていた。

わたしはどこにいるんだろう。べつにどうでもいい話題。わたしは走った。ただ走った。後ろにわたしの足音が響きわたしはそれを背景にただ走っている。

なにがみえているのだろう。なにを掴みたいんだろう。わたしにはわかっていない。考えるとかおもうとかそういうのですらとっくのむかしに忘れ去っていた。そんなことなんてわたしのなかにはいっていない。

 走っていけばいい。ただそれだけ。普通のことだった。わたしはべつになにもしていない。走ってはいるがそれもまた意識して行われることではなかった。ただできるからやっているだけだ。止まりたいときは止まるし歩きたいときは歩くし寝たいときは寝る。そういう当たり前をただしているだけだ。

わたしは走ってなんかいない。結局のところべつになんだっていいんだ。とにかくただやっていく。ただ走っていく。それだけだった。

 

 

ここは学校。学校らしい。わたしはぶち壊す。ロケットランチャーでぶちかます。ただしたかっただけだ。それだけだ。

 教師がでてくる。警察はやってくる。さんまは降っている。わたしは逃げない。ただ殴る。殴って殴って殴られる。

 撃たれて切られて血塗れに。わたしはそれでも殴りたい。それでもつっぱしりたい。

だが身体は動けなくなっていた。もう動かない。どうして、どうしてさ。

「身体に縛られる。身体はあなた。あなたの限度をしりなさい」

わたしはそうおもってとにかく動き始めた。すこしづづやってきた。でも、だからこれがわたしの限界?

 思い込んでいるだけかもしれない。みろよ身体。まだまだ動けるじゃないか。これぐらいの傷で動けないわけがない。だから、だから。

わたしは走る。とにかく走る。わたしが走れるなら道はいくらでも存在する。わたしは存在させたかった、いま知られていないみちを。わたしというみちを。

わからない。わからないからとにかく走るんだ。どうすればいいかなんてどうでもいい。そんなのいつまでもわからない。誰かの跡なんて考えることでしか、考えるってことは止まっちまうわけだからだめだ。とにかく走れ、走るんだ。わたしはわたしを突っ走る。そうして世界と出会えたならばそんなに素敵なことはない。つきとほしとゆめとうそと。わたしは勝手に出会っていく。とにかく走っていって出会ってしまう。そういう時代をいきていく。

 

いきるということは難しくわたしのまえに登場する。とにかく誇示してくる。だからわたしはつばを吐く。そして体当たりする。いきる、あなたの重さをわたしは確かめる。結構人並みねあなたも。もしかしてにんげん? そういう質問も簡単に通り抜けていく。そういうものだった。いきるってことは。

 

とにかくいきてはしってそして、そして。わたしは止まったときに考える。はしったときのちからを身体に染み込ませる。そうして栄養に満ちた身体を糧にわたしはただ綴る。ちからを綴りに込めて。ただ綴る。

 

 

「ぼくのことどうおもってる?」

「なんとも」

そういうと彼はしょげる。しょげて倒れる。倒れこむ。それが彼という存在であった。ああ気持ち悪い。彼のことではない。わたしがそうおもう、か、。、。

なんでもありません。ただ取り乱したそれだけです。

まあでも世の中天動説とかてんどんとかよくわからないけどなぜかこういうかたちをしていてわたしはそれをただしらずにわかっていてそれでいてどうしてかいきている。なぜいきているのかわからないけどいきている。どうしていきているとかわからないけれどいきている。そうして時間は過ぎ去っていく。わたしがわからないと呟くたびにせかいは老いていく。花は枯れ桜は散っていく。そしてさんまが降っている。

さんまはなぜ降るのだろうか。なぜ海を登りここまでやってきたのだろうか。わたしたちに恨みでもあるのだろうか。そうだとしてもだ。終わっていない問題に身を燃やすさんま。そういう時期は重要だ。わたしも燃やした。燃やし尽くした。忘れた。そういうものだ。

さんまなんていまはあまりみえない。むかしはよくみえたけれどいまはもう。

さんまなどもう降っていないのかもしれない。わたしはそう思うとふと傘を差したくなった。碧い傘。

 世界に何かが降っている。私たちは常に浴びている。吸収している。身体に血が通いそしてどんどんと腐っていく。わたしはいなくなる。

 私の身体はもういない。溶けてしまった。腐りきった。そして、それでも。いきていた。

 

しんでしにきってそれでもいきていたのならわたしはただつぶやきをつづける。いきるをつづける。つづけるすらわすれてただいきていく。そうして時は過ぎ去りわたしはねる。ねてしぬ。それでもいきることをやめずたたいきていく。ただ、ただ。

 

 

あの街のことをきいた。誰かが話していたわけではない。でもきいた。風がはなしていたのかもしれない。風の歌がわたしのあの街を響かせたのかもしれない。

わたしにとってあの街はなんなんだろう。今となってはもうなにも思わない。話を聞かないと意識の上に上らない。わたしはもう溶かしきったのだ。あの街という物語を。

わたしは紡いでいる。消化している。またべつの場所のおはなしを。ただいきてる。紡いでる。そうして時は過ぎ去っていく。

もうどうでもいいとかよくないとかそういうことですらはるかむかしのはなしでなんの気持ちもなかった。

すべてはあのときあの居場所に置いてきた。ただ配置されている。わたしには遠く程近いその場所に。

そうして時代はゆきゆきてせかいは様相を変えていき。わたしもただいきていく。時代なのだ。わたしもそういう存在になってしまったのだ。かつての哀しさも寂しさも辛さもそこに置いて。わたしはただいきる。そういうことになっていたのだ。

 

街にいきもうない街をみて、ただ街はあったそういう存在だけを匂わせる鉄条網のそとからわたしはただなかを眺めていた。わたしには遠い。もう忘れた場所。わたしのかつて。それでいてわたしの一部。

ほんとうに寂しさというか寂寥がこのなかから醸し出されている。風が冷たい。身体が引き締まる。いきている。わたしはいきている。

もうただたっていただけで。もう帰ろう。わたしはわたしへと帰ろう。もうこれで十分さようなら。そうおもってかえろうとしたんだけど。抜け穴がありまして。鉄条網をくぐって向こうにいける。そういうルートが目の前に。

めんどくさい。どうでもいい。わたしはそうおもっていた。どうせこのなかにはあの学校とただ泥と泥でしかない平原しかないのだ。わたしにはもう遠いはなしなんだ。

でもせっかくだから。せっかくだからいってみようよ。わたしはもうこの街というかなにかしょうもないことにいつまでも足を取られているそういう現実が存在しているのは嫌だった。だからはいった。わざわざしゃがみ込み服が汚れるまでの選択をしても入り込んだんだ。少しはわたしになにかを残させなさいよ。そう街に呟いた。

 

街にはなにもなくただ歩く消耗するなにもないただ寂しさだけがこの街の存在、わたしはそれを知っただけ。街。わたしがいた街なんだろうか。わたしがただ起きただいきただ苦しんでただ自傷してただ倒れた、あの街なんだろうか。ほんとうにもう溶けてしまったんだな。もう街とかそういうのからはるか遠く興味すらも湧かないなんてことないふつうさがわたしにとっての街なんだなーと実感した。

それは学校のなかにはいっても同じだった。もうどこに行こうとも一緒だった。わたしは燃やしたくなった。全部燃やしたくなった。もうなくても大丈夫だ。この街は消えても大丈夫だ。わたしの中で消化したのだ。もう大丈夫だこの街は。

わたしは燃やす。火をつける。一部だけ崩壊した学校は燃え始める。なかから燃えていく。あの教室やその教室や廊下まで。火はすべてを燃やしていく。

 煙だ。煙がそらへとのびていく。だれかに映るんだろうかこの煙は。わたしは燃やしています。放火犯です。この街は燃えます。人知れず燃えます。火はわたしだけしかみていないでしょう。もう燃え尽きます。

 学校中燃えて煙は激しくうねり混じり潰し合いそらへと流されていく。煙ぐらいは誰かに届くだろうか。この街を憶えているひとはいるのだろうか。

もう忘れられ消化されそのうえすべてを燃やされすべてがなにかにされていく。そういう街は幸せなんだろうか。さんまが降り学校以外を踏み溶かしたこの街の存在はまだいきているのだろうか。いきていたとしてももうわたしは溶かした。燃えていった。

それでも誰かにとってこの街はまだ消化できていないのかもしれない。わたしが完全に溶かしきっていてもこの街はまだ生きているのかもしれない。この街と共に生きたひと、少しだけ関わったひと、間接的に関わったひと、関わらなかったひと、様々な街とひとの関係。どこにいようと街は存在し続ける。

それでもこの街は燃えたのだ。この街を燃やす、そういう関係だったのだ、わたしは。そしてそれでも街は誰かのもとで存在し続けるのだ。わたしはそれをおもうとただ退却した。鉄条網も破壊して街の存在までもなくそうと考えていたがやめた。それはわたしがやれることではないな、またべつのひとがやるかもしれないことなんだなとおもった。

だからわたしが鉄条網を抜け後ろを振り返ったときわたしはなんとなくこの街にまたはいれてよかったなと思えたのだ。もう関係など消化したあとでもまだ関係を結べる、その事実に気づけただけでもわたしは凄い収穫を得た。わたしよかった幸せ者だ。そう思いこの地を去った次第である。

 学校は燃やしてしまったけどね。まあそういうもんだ。いいってこと。

なんていうか燃やしてしまったことに少し気を病んでしまうのは事実ではある。またわたしのなかにこの街は存在を示した。どういきていくのかしらないが。そうあるんだろう。

 

もうなにもないだろう。なにも継続することなく日々はただ紡がれていく。綴りにはなんの意味もなくなりただそこにいるわたしだけが記録されていく。それだけでそれ以上も残さないそれでしかあり得ない。剥離とかそういうものはほど遠くなったのかな。わたしには遠くなったのかな。そう思い寝てもわたしには絶対的に密着しているのだ。わからなくても確かな立場。ふとした瞬間に気づきそしていつのまにか慢性している。わたしは囚われ吐きに吐きそして語れなくなる。綴りは溶かされつぶやきは焼かれ紡ごうにも糸はない。わたしはもうそこにはいなかった。そうして有馬明音はいなくなりまたどこかでなにかをしている。ただ息をしている。そうして季節は巡り巡り時代が尽きた頃にわたしは死を迎える。骨にぬり犬っころにペロペロ舐められ道端に捨てられ車に踏み潰される。それがわたしの未来であった。

 

わたしを燃やし燃やしてすべて燃やしてそしてわたしになりたい。わたしはわたしをさらに発展させそしてあしたへと進みたい。

 

わたしに物語が必要なのだろうか。わからない。もういらないのでは。もう生きてないのでは。勝手に死ねばいいのでは。そう考えているうちにまどろみが訪れて世間擦れしてあぱずれになり道端に捨てられる。いつもそうなるのだ。わたしをたどるということはそうなのであった。それでしかありえなかった。物語がおわったとしたらそれはただ個人の綴りでしかなくて綴りが尽きたときにわたしは物語としていきてしまうんだろう。なにもかもを特に存在しないとまったくの浮いたせかいだ、浮いたものなんて無いに等しいんだ。そう思い込んだわたしにはもう確かななにか以外はみえなくなってしまっているから。だからとてつもなくこういう綴り、こういう綴りだけが永遠と続き個人を裁定してしまう、そういう現実にいきてしまっていたのであった。

ただただ綴るだけの世界に来てしまったわたしはなにを綴ろうとかここはひとつ終わろうじゃないか、ここでこそ終焉をむかえるひとつの未来だとかおもうのだけど、もうそういう話でさえ遠い現実になってしまったのかもしれない。ただただ綴るだけに満たされたせかいにはそんな価値でせかいを定めていかない定めはただせかいであってわたしはただ綴っていくかそうでないかただそれだけが目の前にある現実であった。

そう考えるともうわたしにはなにもなく特に意味もなくことばとかせかいとかそんなものもただの無意味な文字列にしか過ぎずだからもう綴られていくその感触だけに血を液体を感じていきていくしかなかった。むしろそこにせかいを感じるだけの現実がそこにはあった。

そうやって綴っていくとわたしの名前もわからなくなる。なんだったんだろうわたしの名前。もうなくなったのかもしれないな。もうここにはだれもいなくて綴るだけの存在でしかなくなったトイレットペーパーだけがあるのかもしれないな。そうおもうと、いやわたしはまっすぐ綴りたい、わたしの在りかたというのはどうしようもなく傍だったり隅っこだったりの存在にありつくので力だったりそういうのは薄く頼りがたいのだ。べつのところでいきてきたのだ。いきるにもっと強いやりかたがあるのだろうがわからずいきるしかなくてそこを乗り越えてやっていくというのはなかなかに難しい。わたしもまたまるでせかいが存在しないようななにもここにはないわたしはもういきていないそういう錯覚に取り憑かれた感覚に陥るがもうわからない。わたしはここにいきているのだろうか。もうなにをやっているかなんて完全に遠い出来事。何度も何度も反芻しているかもしれない同じこと違うこと支離滅裂それでさえ普通に気づかずおこなっているそういう現実がわたしに起きているかもしれない。あなたはしっているでしょう。わたしは知りませんがあなたなら。この綴りをただただ追っているあなたならわかっているでしょう。でもわたしにはわかりません。ただただ綴っているだけですから。

 全体自体がいきている。それで少しづつちからにしていきだんだんと穴を埋めていく。そうして次第に強くなる。だれも埋められなくなる。何事もただただの綴りが必要だ。ただいきていくなら。

 

腕が止まりただツイッターをみてそしてまた綴りを始めようとするがその瞬間にわたしなにをしてなにを思ってなにが続いていたのかわからなくなりそもそも何かを建設していたのかそれともなんてことない当たり前の砂のお城でみたら世間的に波に崩される当たり前さだったのかもうとうに昔の出来事でこりゃあ大変世界の砂のお城を保存しなければならない。そうしてわたしの砂のお城守るぞプロジェクトの旅が始まったのである。まずはカンボジアのお城から守ろう。カンボジアはどこにあるんだ。一体わたしなんなんだ。綴りはどこに消え去った。わたしはなに考えているのか。どんどん消えてわからずの丘で独り踊る滅亡した一族の末裔の話をただ聴いて一緒に踊り意気投合しダンス大会にて優勝しオランダのテレビ番組のレギュラー番組を勝ち取るという別にどうでもいいなんてことない意味のないわたしがたた展開されていた。わたしは果たしてどうなっていくのだろうか。わたしはわたしを製造しているのだろうか。そうならば果たしてどうして世界の月が、月が、、、なにをはなしているんだ。ただただ前のめり未来の礎をつくりわたし自身はいつのまにか消え去るそんなこともじき訪れる。わたしなにもいえないもういない。ああ駄目だわたしは溶けていく。もうここにはいない。あれはわたしを象る人形だ。残念でもないし当然だ。うんもうわたしなどいつのまにか消え去っているのだから。だから。大丈夫。大丈夫なんだ。そういっておけ。そうすれば瞬間瞬間大丈夫だからちょっとした先には進めるさ。それはなかなかなことだっていうこともしっておいたほうがいい。まあいいとかそういう問題ではないけどな。勝手にそう思えるそういう当たり前でなければ意味が薄いからな。まあいうことによりいつかに繋がるかもしれないことは確かだろうけどね。でもさまあそういうことだ。なにいっていたのか忘れちまったっていうのが現実さ。ああなんなんだろう。わからなくそれでいて綴りに満たされている。そういう人生であった。

 

すやすやすやすや。文章は飛んでいく。記憶によると3度ぐらいはそういうの思い浮かべているねわたしの薄いあたまの中の出来事はまだまだそう簡単に瞬間爆発しないそうだね。瞬間爆発したいね。そうして頭がもげてたのしんごしちゃうね。あらまだね。

もうわたしやわたしとどこかにいくとかなに思うとか夢であぶくでビール缶の奥で寝ていてそれでいてサンマ咥えていて、さんま、サンマ? さんまだよ。わたしのなかでさんまは生きているのだろうか。果たして果たしてあれだけ食ってしまったのだ。食ってしまったんだから生きているはずだ。からだのなか至る所にあのキュートな目が浮いているはずだ。そう思うんだけどじつのところさんまはどこにもいない。考えてみると当たり前だなまのさんまなんて食っていない死んださんまばかり食っていたんだから。いや違うかった。わたしは生きたさんまを食っていたじゃないか。食ってくってそれ故に死んでしまったじゃないか。そんな現実があったことはいまのここまでいつかの思い出アルバムのなかに収容して監獄行きのバスにいれてわすれてしまっていたじゃないか。

わたしとさんまはそう遠くない現実で繋がっているのだ。もうせかいからさんまが死滅したとはいえわたしのなかにはさんまはいきているのだ。例え目が浮遊してなくてもね。

 

いやあなんていうか駄目だね。こういうことばを言わなくちゃわたしは維持できないんだね。駄目とか浮いちゃうとか死んじゃうとか忘れちゃうとかそういうの。それからも飛んでいきたいね。わたしがただただいきていきてはしってはしる。そういう現実の延長線をただただ瞬間埋めていきていく。綴っていく。それをやっていって正面からぶつかったりまっすぐ気持ちを受け止めたりそうすることによって殴られたり殺されたりするんだろうけれどそれをしっかり受け止めてとにかくいきていきたいね。

 

わたしは世間話をしていたそうだね。それは遥か遠い世界の出来事なんだそうだね。それは本当に存在したかもあやしい幻のことばなんですってね。

 強度。言葉の強度。そのことばを使うならどこまでも続くんだろう。どこまでいきられるんだろう。それを考えてわたしは寝て起きて息をする。考えるまでもなくただただやっていく。ことばのありかた程度それをはかり延ばしそしていきていく。そうやっていつのひか言葉の強度を確かなかたちとして認識し使うということができるようになっているんだろうね。ただやっていくだけね。それだけね。

 

 

 

私は寝るし諦めるし放っておく。何度も何度もそうやってまたやめてそしてやってまた諦めてそれを繰り返し繰り返し次第にただやるようになっていく。ただ続けるということにたどり着くまでにわたしがかかるこころというものはこれぐらい。やすいしおもいしわからない。

わたしはただ綴り特にそれで問題なしそれからが問題でもなくただただやっていく。なにがなんでもやっていく。そうしてそれが普通になっていきまったく別のことを話すというせかいを思い浮かべてただやっていきそういう想像でさえ箱の中に詰め込まずとも箱の中に入っていて。そうわたしのいるいまもまた大きな箱で見返したり中身をみたり触ったりするのだ。わたしの視野に造形されたいまをただ明日への綴りの現象として存在させるのだ。まったくわからないがそういうものなのだ。どこをあなたの綴りにしているのか、またするのか、できるようになっていったのか。それがすべての問題であった。わたし有馬明音がどのようにいまを視ているのか視ていられるのかが肝要であった。

もちろんわからない。わからなくていい。わたしのわかりはあしたのわたしはたまただれがしっている。それでいい。それでしかいられなくそれでいなくともそれでよい。わたしにはわからないがそうおもうしかない。すべてはただ構築され構築はすべてによっておこなわれる。わたしの綴りの距離はそうなっていくのかもしれない。それがなにかなど当たり前の如くしっていてしらない。そうただ呟くだけ。

 

踊り走っていく少女たちをみてわたしもまたああいうじだいがあったんだなーっておもった。なぜか誰にも勝てない煌めきをもったあの時。わたしはみた。勝てないとおもった。あの人の過去をみてあのひとが少女だった時を見て勝てないとおもった。

なぜあんなに見事な少女でいられたのであろう。なんてことない普通のわたしたちのなかにいる一員でしかないのになぜあんなにまで少女を。

あのこだけではない。みんながみんな少女してた。

 拾い上げるにはあまりにもろすぎて。縛り上げるにはあまりに緩すぎて。それなのにあの時期の存在というのにはあまりに強すぎて。

 泣く、泣いた。少女に泣いた。わたしは忘れた。いなくなった。それに対しもう脆い、決まりがないあぶくさと回答するわたしでも少女のもつ瞬間の煌めきだけには舌を巻く。あまりにキラッと鋭い。

それを忘れない。あのときを忘れない。そういうことじゃなくても時は過ぎわたしはいきていた。どうするのか。どうもしない。ただやっていくだけだ。それだけだ。

 

一度きりのさんまのぴちぴちをあなたには味わってもらいます。そういうキャッチコピー。映画のパッケージ。瞬間瞬間の電車からみえた看板の文字。

わたしに痛いをくれるのか。あなたは痛さをしっているのか。ぴちぴちの痛さ。

 関係ないだろう。別の痛みだろう。痛みとはなんだろう。痛みに鈍感で痛みを怖れるわたしの痛みとはなんだろう。もうわからない。はるか遠くのおはなしだ。

 映画。映画を見たい。なにがわたしと住んでいるところが近いそういうひとがわたしの未来とった映画。わたしたちはそこにいた。ただ歩いていた。わたしもただ歩いていた。ただそういう映画。

あなたにとってそこはなんだろう。わたしにとってここはなんだろう。ここに相応しきかたち。含みも含みもの選ばれた、選ばれた……

選ばれたもまた感覚として悲しきことば。そういうことじゃないのにね。まさに相応しいだろうそういう言葉を思い込んでしまう環境なのだから。

どこもそこもなくてだからこそただいきてそれ故にただあなたはそこにあって。それだけだと、そういうものだと少なくともいまのわたしの感じはそうだから。それをしるまでのまあひとつの場所ってやつなのかなそういう言葉の環境も。

 言葉はおおきい。はるか遠くただ歩みの末に成り立つ居場所を表す概念。わたしもただ綴りを続けることによってことばに変化をもよおしてきたね。だんだんことばが言葉に、まだまだかっすかすだけどもそれでも進化してきているよ。言葉のリズムとか居場所とかみえてきたのかも。また別のただのわたしの居場所かもだけどね。

あの部屋、あの教室、あの学校、あの街。あなたのことばの居場所はどこかな。どこまでがことばなのかな。だからあなたのことばとあの人の言葉の範囲は違うかもしれない。だからこそしりただそれだけで。結局のところいまの流れというかただそれだけがふつうなのね。よくわからず自然な感じなのね。すごいかどうかわからないけどいきている。いきているよ。ことばだね。それってことばだね。確かなことばわたし拾った。これはなに? なんていうつぶやき。たいやきたべたいな、そういうつぶやき。わたしはしりかんじただ溶けて手のひらわたしのなかに。そうしてただとけかけのラムネのようなことばをひろってひろって…それからなにをするんだろう。ほしかな? クリスマスツリーに合うほしを見繕うのかな。そうかもね。クリスマスすぎたけれどそれが一番似合う。そういうもんだ。そういうこと。そうであれ。

 当たり前の時間とあなたの時間とあいにあいただ流れていく。そうしてわたしはくしゃみをして眠りにつく。わたしのなまえなんだったっけ? 有馬明音。そういう名前。興味ないけどいつかたどり着くかもしれないからメモしておくよ。それだけよ。さようなら。さようなら。ずずず…。わたしは寝ました。眠りにつきました。そういうことです。そうなのです。まさかワッフルパイ食べているとかそういうはなしではないのです。だからもうわたしの部屋にいないであなたもお休みを。

まあネットフリーパスの会員無料三時間連続視聴者のみ有料の有馬明音部屋をみるんだったら構いませんよ。それはわたしの部屋じゃありませんからね。まあまさかあなたがそういう物好きの類だったなんてしりませんでしたけどまあそうであっても不思議じゃありませんね。あなたもまたここにいるのですから。自然ですね、はい。

 

 

 明日明日明日。明日になるとさんまを咥えたどら猫を追いかけるわたしが存在しているだろうか。それをみてというかなぜわたしは追いかけているのだろうか。どら猫がくわえたさんまなどばっちいじゃないか。そうじゃないにしてもわざわざさんまひとつぐらいどら猫に与えても構わないじゃないか。それでせかいが廻るならなんで素敵なロジックではないか。それでも追いかけるのか。どら猫にさんま一匹のお約束のために走るのか。追いかけても意味がないあまりにお遊びすぎるとわかっていて。そんなわけない。もうやめればいい。またべつの世間話に生きたらいい。そうして世間話に付き纏うそういうお茶目さが勝手に付き纏うものだと気づけばいい。だからいきろ。ただいきろ。このことばに内在されたいままでになるまでただ愚痴を言い悪態をつきなんでもそのときにおもったこと不安や悩み、いえないゆわないただそこにいる。そうして時間が過ぎ去ってわたしはわからなくなり自傷してファッションして見繕って隠れて逃げていなくなるというのをただ繰り返せばいい。そうしてただいきていきていきていて。そうなったときになにかをおもったならそれをただやればいい。抜けたことばもこうどうもあした、そしていまただやればいい。それだけ。それだけだ。ただそれだけをやっていく。わたしはやっていく。有馬明音はやっていく。そういうことだ。それ以外特になし。わたしはみそ汁を飲む。あなたもあなたをやっていてくれ。それだけだ。またね、じゃあね。ブランコがんばってね。YouTubeで一万再生できたらいいね。そういうことだ。さいなら。元気でな。味噌汁飲めよ。絶対だぞ。そういうことだ。ではでは。ばいばい。

 

わたしはどうしてこうなったのであろう。なにかだけを拾い上げてそしてそしてかつてだけをただそこに置いて今のふもとにおいて忘れてただいきて息をして。そういう存在であった。ただそうして時間は過ぎ去りわたしはさらにわたしにならざるを得なかったわたし有馬明音となっていく。こういうかたちになってしまう場所に存在してしまった有馬明音を呪った。そういう時期もあった。今のただ存在して時折殴る存在でないものに気づかされそうしてまた範囲を広げていく。有馬明音は明白になっていく。

そうやっていきていってわたしはどうしてこうやってたっていられるのだろうか。またべつの場所もあり得たのだろうか。またべつの組み合わせを考えてとこにつく。おねむになる。

わたしのそばにだれかはいるのだろうか。わたしはゆるしておらず入り口すら閉じているのではなかろうか。なかにはいったらなんてことないのにだからこそわたしはだれもいれようとはしないのではないか。

このドアを信じられるのはどういう方法であろうか。不安と猜疑に身を駆られてただのちょっとした勇気をもったときであろうか。いますこしづつそうやって綴りの域を拡げられつつあるわたしのように。そういうドアもまた信じられるのだろうか。できるだけはやくただそこまでのみちを綴りいつかだれかとそのときにはなせられたらそんなにいいことはないとおそらくひとりでたた綴っている有馬明音はおもっていた。

ただ綴り綴り、そしていつのひか。

 

時代は巡り巡り様相を変えるらしい。ただわたしがなにかほかの時代とともにいきていただけそれだけなのに。わたしはそれを知ってはいないからまたべつのことばかもしれないが。

そういうものもまたパスタ産業に訪れている。パスタもまたさんまと同じみち、違うみちを歩み始めている。さんまの煽りをうけて絶滅寸前なのだ。

「いくらなんでも食いすぎさ。もうだめさ」

 業界の体力を超えたパスタの需要。もう止められない。パスタのお城は崩壊した。ひとが入り乱れパスタを食いちぎった。農家より野生のパスタのほうが生存数は多いときく。もはや街の片隅も片隅にただただ種族としてのいきかたとしてはなかなかに限界へと追い込まれているのかもしれないそういう生き方をするパスタが主流になってしまったのだ。もう街のなかでは歩けないから。パスタ中毒者のおくちのなかに消えちゃうからそうするしかなかった。

「ひとはさんまかそれともぱすたか」

どちらがうそなんだろう。パスタはきおくなのかなんなのか。なにを背負っているか言葉としてはうまれてこない。彼らのなかはたまたそとにつまっているから。

「そういうわけで職を失った親戚めになにか施しを」

はいぽち袋。これで正月も安泰だわ。

「中身入っていない。あんなにお年玉入れたのに」

あんたはいいかもめだったのよ。はやくきづけばよかったのに。

「そんな殺生な。さんまをあげるからどうか、どうか」

 持っていないくせにそんなこというな。見苦しい。

「ほんとうです。骨だけさんまですがありますよ」

 骨ならいらないわ。さようなら。

「ああまってくれ。ペロペロ舐められるんだ。幸せなんだ。だからだから」

さようなら。また会う日まで。

 

わたしはわたしをおぼえているか。わたしはわたしの視点で覚えている。いつのまにかポップステップジャンプ。箱箱箱のなか。箱のなかで踊りそしていきている。全部は詰まっていてどうであれ忘れていない。視ていたならば。

そうであるとはおもうがわからない。もし切り落とされどこかにもっていかれたら忘れたとはいえるのだろうか。そこには詰まっていて溶けていないなら忘れていないといえるだろう。でも溶けたのならどう、どう。

それもまた、かもしれない。溶けたとしてもそれは空気に溶けていてわたしはその分子を吸いわたしのなかにやさしく密着させる。そしていつのまにかわたしの記憶として存在していてどんどん溶け合って溶け合って有馬明音となっていく。

でもそうじゃなくて、くうきがなく、、ないなら溶けないそのままでそれ以上なく存在しないか。わたしには視えないのか。どうなんだろうか。わからない。また今後の課題だ。いつか気づいたときにそのときはわかっているだろうか。明日のわたしはしっているだろうかあなたのこと。

そうしていくつものわたしに預けて有馬明音は眠る。時を過ごす。起きているわたしに託してただ眠る。起きたとき次はわたしがただ預かったものを開けるために。ただ眠りそうして時は開けわたしはただ綴る。ただやる。そうしてそうして日は巡り巡りわたしはまた眠くなり布団に潜り脇に置いてある手紙を読んで眠る。あなたの明日を知ってただ眠る。わたしのきょうはただそういうもので。そうやって時間は過ぎていつのまにかわたしは溶けてきえてしまう。あなたのもとに消えてしまう。ただのあぶくとして浮いてあなたのもとでぱちんっとわれてしまう。そうしてあなたの鼻腔に触れて溶けて浸透してわたしはいつのまにかあなたの血流の中にとろけてきえていなくなってしまう。そういうものなのか。わからない。なんか気持ち悪い。そうおもってスタコラサッサ逃げました。

 

わたしの当たり前さがどこにあるかなんて有馬明音は知らない。気づいたときにはもう飛んでいる最中でとにかくただ正面というかわたしが視えていたであろうあの真っ直ぐな目を逸らさないただ痛くそれ故に歩むことが可能なあのみちを歩むということがなんてなんで見事なこと、わたしの考えですら大きく溶けていつのまにかわたしがおもっているしっていられるそんなまやかしの真っ直ぐさはとは違うわたしに相応しいみちにおおきく吸収されてそれこそ望むみちなのだ。

ただちだわたしは綴りわたしはわたしのなかでしりうる限りの常に戦うことでしか前に進めないわたしにとっての当たり前のみちをできる限りその綴りに含ませているのかどうか、それとは違うみちをまるでそのみちだとして、もうそこは歩まなくていいという体験の量が足りているというのに滞在してちっぽけな勇気をだす前にまた溶かす作業(それもまたそうならばありだが)に殉じていないかどうかだけ確認して眠りにつく。わたしはただ綴る。わたしのみちを含ませられる現在をもって綴らせる。有馬明音はいきている。ただいきている。有馬明音の当たり前さはそういうところにあるのか。わたしに拾い上げられる有馬明音はそういう存在であった。あなたはどう? 有馬明音の当たり前ってなんだとおもう。いつか教えてね。そのときまでただ綴っておくよ。そうしてわたしは寝ておくよ。そういうことでさいなら。朝ごはんはめだまやき。それだけはおぼえておいてね。絶対だよ。そういうことでさいなら。

 

 

 例えば昨日話した現実はもうとっくに溶けたゆめであったならばこうやって綴るわたしには果たしてなにを描けるといえるのだろうか。

まあ特になにもかけないそういう現実がわたしのまえにあらわれただただゆめとうそに溺れに溺れそうしてあまりに不出来なせかいをまたふつうへと揺り戻すそんな巨塔を創り上げたとしたら果たしてなにを哀しもうか。わたしのいた場所がそういう場所だっただけ。だから特に問題ない。そしてわたしはとんだんだ。あのそらをとんだんだ。そうおもうともう大丈夫。大丈夫だとおもったんだ。もうおりれないの? なぜ、なぜ?

そらをとんでいるだけなのにわたしはもうとべないとしった。そらをとぶのがふつうじゃないわたしにそらをとばせるならばそれは哀しみを受け持っていて。わたしは自然じゃなくあまりに不出来なコルク仕掛けの羽根がギシギシと音を立てながら飛んでいる。飛翔とくうきにのってただとんでいるようにみせかけているだけでもうここは断崖。わたしは選んだんだ。なにを選べるの? せかいに選択なんてゆめだった。ただただそうなっていく。そうならざるをえない。なにが起こっても起こらなくても意味がない。そうおもうのがふつうじゃないか。なにかおもうなんてとくにいみがなく。わたしのなかのわずかなうごくかうごかないか。ただいまちょっとした孤島をたてるか、たてないか。まだわずかに残ったわたしの選択。気づかないだけでそれもまた決まってはいるが、わたしはただ選択していた。そして積みあがり積み積みてこの羽根はやり切りもうみえないせかいのふもとにたどりついたところで進行をやめ、わたしは落ちそして言葉になる。ひとつの単語。そうしてせかいは今日も上手く廻る。想像がいつまでもわたしたちを豊かにするために。わたしたちがいきられるように。せかいは想像をうみだした。うそとゆめを生み出した。だから? なんもないけどね。

 

結局ただ生きるのとなにも変わらない。わたしたちは万事順調だった。はやくもおそくもない。結果だけを見ればいつも変わらない当たり前の経過であった。だからわたしはただいきた。それだけであった。それでしかなかった。ただ綴り呼吸し息を吐いた。白い息はくうかんに薄く溶けていってそしてわたしはただたちそしてねむる。時代は巡りわたしは溶ける。せかいはどうか。溶けるのか在るのか。せかいはとろけてそのあとにはなにがまっているの? おもしろそうだがわからないというのがあたりまえの反応であった。

 

そういうのを繰り返し繰り返しことばとして綴り言葉になってそしてなにになる? さあね。そう有馬明音は呟いた。

わからないからね。当たり前だ。

でもいきていた。そして呟いた。

ねようっと。

そうおもうとはやい。布団にダッシュし時間をチェックして電気を消した。彼女はもう寝たのだ。あまりに鮮やか。言葉を失う。

だからわたしも寝る。寝て日々を過ごす。そうしていきる。いきていた。日常であった。有馬明音の日常であった。

 

 

すべては気づきしっているが、用はわかっているかわかってないかということなのだ。それを意味あるものとして捉えるか捉えないか。ただそれだけなのだ。

いきた言葉、死んだ言葉。その言葉はまだ薄くそれ故示唆されなかった。彼にとってはまだ他を差し置いてやるというそういう案件ではなかった。

だからといって彼に他の言葉との格闘があるかというとそうではなかった。ただぶらついていた。なにもしていなかった。別の大事を優先させたつもりとなって、それは確かに重要なことではあるが、肝心の彼自身の中央部分、彼の言葉そのものが薄かった。まだそこをただ高めていくそれだけでいいのにそこからの行動を自らの術と考えていた。身体と思考が剥離していた。自らの身体の位置をしらなかった。

 行動、行動。余りに多く人など認識できない。ただ点がその街を充満していた、私も歩いていた。

 私。私はいる。ここにいる。そう叫ぶが街には当たり前に響かずそして消え去った。わたし、わたし。

 実際のところまだわたしはわたしにとらわれそして寝ている。だか、だがなんだ。

まだまだとにかく綴りわからなくともただ綴りひとつの身体の中。認識と意識をただいれて綴る。線を束める。生きた言葉を集めに集め一人の人間。彼女ならそう。有馬明音という人間にしていく。

わたしのなかにも少しづつ人や街や生活が生まれ始めている。わたしの言葉が生成されていく。当たり前の強さ。そしてそのリズム、線の集中度合いに響かされ私は笑う。なんで彼らはずるいのだ。これほどのエネルギーを抱えて。当たり前だ。わたしが薄いのも普通だ。だから面白い。そんな当たり前ぐらい全然問題なし。ただやるだけだ。わたしもまた歩んでいくだけだ。この身体にとにかく気づきの当たり前の言葉を拾い注ぎ込むだけ。ただそれだけだ。

 言葉を満たし言葉を知りそして歩みことばを綴り言葉へと丹精込めて詰めていき言葉をみてわたしはいきる。繰り返す。今はそれをやる時期だ。ただそれだけをわたしは呟く。こうしてわたしに言葉が定着していってそして身体の軸に言葉が埋まったとき、わたしは一人の人をそこにみれるのだろう。

ただやる。綴る。それだけだ。

 

 

 抜けていたり外れていたり。それもまたただ当たり前。ただ呟くことでわたしの流れに噛み合わないリズムの肉を食ってまた別の音とする。そうして呟き続け少しずつ少しずつなのだ。それをただ私としてやっていく。それだけであった。

 

総てを注ぎ込んで私はただ生きる。全ての線をひとつの線として束ね私は生きていく。今まで出来なかったこと。だからこそ今わかること。その強さ。力強さ。

 全然違う。前までは生きていなかったぐらい。あれでよく生きてた。私は褒める。私は凄かったんだ結構。

ただそれだけの問題だ。もっともっと大きくなり世界を知ったならまた大きなまだ私が中にいているそういう地域を話せるだろうが。まだまだ私が箱の中のなか。そういう世界だからこういうことばを呟くしいってしまう。要はただ身体の中に通すか通さないかただそれだけだと。

そういうのが当たり前になったとき、それが前提になったときわたしはまたひとつ外にでる。言葉の大きな世界。そうやって少しづつ広がっていき、どうなるんだろう。

わからないが、でも。いまのわたしはただいきる。綴る。それだけははっきりと。そしていままでがあったこと。忘れてもあったこと。それだけは大丈夫。忘れても詰まっているからあなたが知っているから大丈夫。わたしはただいきていく。そんだけ。

 

 

 

世間話。当たり障りのない世の中の一般的話。気の置けない雑談。

 有馬明音。彼女のせかいは狭くいまも狭い。極小。

だがそれでもことばをはなす。つぶやく。いきている。なんてことない当たり障りのないはなしをする。彼女自身の世間話をただ話している。

わたしたちはそれしかできない。ただ当たり障りのない世間話を呟くしかできない。世間話が私たちの普通だとそう思う。

ただ一歩前に、半歩前に出すか出さないか。世間話の少し前、心が揺らめくそういうはなし。それをするかしないか。世間話しかできないわたしたちに許された選択。世間話以外のお話。

 有馬明音の世間話。有馬明音は世間話で居続けた。それしか話せないがそうだった。

だが彼女が一歩前の勇気を出し続けられたのかそうでないのか。それはどうなんだろう。当事者のわたしはできたと思う。ゆっくり逃げたり離れたり諦めたりしたが、それでも少しづつ半歩半歩有馬明音は生きていた。呟いていた。そう思う。

だからこそこういう話ができるようになったのだ。言葉が生まれ始めたのだ。

まだまだ有馬明音は歩み続けられる。全然呟ける。綴られる。まだまだやれる。満たせる。有馬明音は生きていられる。

でも有馬明音の話はここまでにしておこう。わたしは次にいけると思うから。そういう選択を選べるほどに有馬明音は呟いたから、だから進めるのだ。

わたしもまたただ世間話をする人間だ。ちょっとした勇気。半歩の勇気。それだけの人間だ。だからこそ生きている。この世界を生きている。

 私自身は何者なのか知らない。でもなぜかここにいる。だから語らせてもらおう私自身の物語。有馬明音とそしてあのさんまが大量に降りしきったあの街の話を。

 

 

名前のなかのあなたについて

 

自分がなんなのか、それを考えると暗礁となる。だから考えない。考えている時間、それに使う心と体。他にもまだやることがあり、さらにそちらのほうがわたしの隙間を大きく埋められる。まずはそちらが先だ。それからの話なのだ、自分がなんなのかということ。

 考えるのか、それともこの考えが実際に存在しているのかどうか。私が自分をただ歩めていってその先にこの考えは全く当ての外れた薄さ故にそういうラベルでなんとかやり過ごしたものであるかもしれない。それを知りそしてわたしは。どうなるのか。

 正直それが怖く、だから進まずただその考えに取り付いていた。そういうものに囲まれていた。だから知っている。もっと他にいい廻り方があるんじゃないかって。そういう不完全なる気持ちで生きるしかなかったから、どうすればいいとかなにかできないかそういうことがわからなくても。ただやっていく。自らの周りの紡げるものをただ紡いでいく。それぐらいが俺にできることであった。俺にわかる、それの行き着く先、そんなものなどまったくの頓珍漢、ただただ目の前しか存在しない在るか無しかそれだけを決めるおれのいるせかいで。いきるということ。それは軽く重く余りに嘘であった。

 

普通の道。公道。歩道と車道は別れ人はただ歩く。歩き歩き。話す人。聞く人。聞いている人。そっぽ向いている奴。ただ前だけを見て歩いている奴。

 学校に行く道は真っ直ぐである。直進である。曲がらない。ただただ歩く。それが朝のいつものであった。

 

校舎は輝いているか。なにがみえる? わからない。時により変わる。

 時計は時間を示す。八時十五分。秒針はただただ動いていた。

 人、人。流れが玄関へと散らばる。声声。声は誰とともに。

 廊下、階段。擦れる靴の音。ただ上がり怠そうに。重たい荷物、軽い荷物。背負って体のバランスは崩れていく。

 

二階の空気は澄んでいる。白い粉を通した世界。誰も一人として歩いている。葉はただ枯れを意識せず淀みのある川をただ一人ゆったりと沈まなく流されて。

 

ドアは開いていて。人は話す。何が故話す。話さなければなんていうか存在できない。望みの上か、そうでないならば。

 

窓は閉まっている。窓の外を見る。前に生きる樹は生きている。そして何を思う。

 

思うこと。思い、思い。思うとはなんだろうか。何かできているようなそんな錯覚。言葉を俺はまだ知らない。そう思いただ鞄を地面に置き、座った。

「あなたまたきていたのね」

 女の子。偶に話す。

「きたらいけないのか」

そう話すと彼女は

「別に」

そういってただ歩いていった。どこにいくんだろうか。ドアの向こう、教室をでて。

 彼女の名は有馬明音という。なぜか俺が縁を持つことになった、時々話すことがあるそういう縁でしかなくただそうでしかないそういう少女であった。

 

白い。なぜここにいれるのだろう。生きながらに死を体験している。俺は痛みも苦しみもそれを知る者からすると薄くなぜここにくるまでこうでしかいられなかったのか、そういうくだらなく許されない苦しみをうけていた。

こういう空間にいるのは俺という環境を表していた。行かず進まず汚ならず。痛みは逃げない。苦しみは逃げない。ただここで白い粉のなかで次第に麻痺していき、そして死を迎えるのだ。自我を思い込んだ形だけの俺の終末。そういう空間だった。

どうしても同じならば簡単に飛び込もうか。窓は容易い。鍵を開け窓を開けたらもう外だ。空気が入れ込む。冷めた冷ややかな俺をここは生きているとあなたは死にますか、冷ややかになりますかとそういう空気。だからといって落ちたからといって俺は生きられないだろう。ただ汚物を吐き散らし醜さだけが俺というものを表すそういう姿だけで俺は越えられない。死ねないのだ。死ねるなら俺は飛ばない飛ばなくとももうとっくにここになどいないだからここにいるものは死ねない生きられない。少なくとも俺は生きていない。自殺などただの偽物だった。

 

 気づくため。それのため。俺は生きられないとそんな薬はないのだと。偽物がいるのだ。身体の中に入れて入れて入れて。吐いて糞尿になって。それでも知れない。身体に栄養が含まれない。空気だ。偽物は空気だ。

 俺はただ脳の中で身体の中でそれを知らなければならない。そう思い込むための嘘であった。環境というものに触れていた。俺の嘘。偽物は教えてくれた。そんなものでは死ねないということ。ただ死ねということ。自らで腹を抉るのではない。内臓から、その奥から死ぬ前に死ななければならない。生きる前に生きなければならない。そうでなければ生きられない。死ねない。困難であった。遠かった、余りにも。

 

結局ここに居座り、居座らずともそうでなければならない。わたしはひとつひとつやるしかなかった。自らに含めさせそしてそして。それでしかいられない。それだけだった。

 

「灰原君」

そうしてノートを受け取る。なんてことないノートだ。どうでもいい。

 無駄、意味なし。いま生きるということ。ただ生きてそして。死ぬ。

 言葉。文字。意味を含められたらどれだけ素敵なことであろうか。

 憧れ。何もわかっていない故の言葉。ただ役割を彼と呼び。

ただ生きてそして絶望して。そうでしかないのだ。生きているだけだった。彼も俺も。

 未来は晴れているのだろうか。言葉はただ流れていくのだろうか。俺は生きてそして言葉など流れるだけで。所有品だとか俺だとかじゃなく全く別の所に俺を持つそんな日がくるのだろうか。わからない。どうであれという話題かも知れない。まったく考えなくてもいい話題かも知れない。だから俺は口を閉じ明日に預けた。わからなくともそれがなにかなど明日決まる。俺は勝手に考え言葉にしそして閃めく。そういう風に繋がっていくのだ。納得するのだ。俺は自分自身を煙を巻いている。まあそれでいい。本当の言葉は使ったことがあるが流れに乗っていないだけだ。またいつか俺の頓珍漢な生き方ではどこかで現れる。だから寝て待つのだ果報は。そうなっている。

 

言葉を探すために生きているのか。ただ綴り息を吐きそして死ぬのか。そしてそれが俺に何をもたらすのか。どうでもいいのだろう。勝手に生きていればそれで充分なのだ。だからいつの日かこの時間は忘れ俺は生きる。だから別にどうだってよかった。

「どうだってよくないわ」

そういうが明音よ。どうだっていいじゃないか。忘れても別に俺は生きているんだから。

「あったからあなたはいるのよ。わかってる?」

わかってるさ。だからこういうことを話しているんじゃないか。こういう言葉を呟けるんじゃないか。

「そうならいいわ」

そういって彼女は教室をでていった。勝手なやつ。

 

街になにがあるというのだろうか。もうなにもない。

「生活を営んでいるのよ」

そうはいうが。なんて空虚さだ。生きることは本当にどうでもよい。そのくせかなり労力によって支えられている。なんて理不尽だ。つらい、つらすぎる。

「あなたもボケたひとね。そういう環境の末かしら。環境大使がぴったりね」

まあそうかもしれないな。嘘かもしれないがいいだろう。俺もそういう箔があると生きやすい。スイカでもひとつ戴こう。叩くといい音が鳴るそういうスイカ。

「今は冬。大使にぴったりね」

そういって彼女はスイカの皮を俺に差し出す。「おいしかったわ」そういって。

「なんで残酷な人間だ。君は酷い人だ」

 彼女は平然という。「私が酷い人じゃなかったらあなたとなんて出会えてないわ環境大使さん」

そういって彼女はこの長い坂を下っていった。はやい。そして揺らめく。長い髪の毛と彼女の身体が。

「君は何処にいるんだい」

 思わず叫んだが。

「私はここにいるわ。確かにいるわ」

そうこちらを振り返り叫んでくれた。嬉しかった。だけど車が走っている。彼女の前に。

「危ない」というまえに彼女は飛んできた。頭が道とぶつかる。

 彼女は破れそして脳が見えた。ピクピクしてる。さんまみたい。

そんなことより。彼女は死んだのか。死んだだろう。肩を揺らすが声を掛けるが反応なし。あっけない。冬のスイカのようにあっけない。俺は泣こうか。そうおもったが。泣けなかった。

 

だからといって有馬明音が本当に死んだかなんて俺にはわからなかった。おそらく生きているのだろう。あの後放置していた身体はカラスが食い彼女自身はまた別の身体で学校に登校してきてまたなんてことない話を俺にしてくるのだろう。それがこの街だから。それが俺だから。これこそがこの世界で生きていられる俺たちの秘密であった。

 生きることも死ぬこともない。生きてないから。死んでないから。俺たちは創り出さないといけない。自らの手で生も死も。そうでなければ生きられない。死ねない。

 

俺は死にたい。死のう。そして死んだ。でも死んでいなかった。何回も何回も試したが生きていた。世界は曖昧に俺の視野を白くした。世界は変わらない。この気持ちでさえも。

 生きたい生きたい生きたい。そう思うが。それもまた花火のように握れない。遠く儚くそれでも俺には在るように思った。だから生きたかった。

どれだけの言葉が俺に確かな触感をくれる? 俺は在るようにできるのか。この今、瞬間だけ生きられる言葉を何度も何度も呟きそして消えさせその上で生きていない故に生きた言葉に気づける日はいつくるのだろう?

 考えなくていい。思わなくていい。そう気づけるぐらいに言葉は死んで。詰まった言葉は何を意味する? おれからただ流れていく繋がりはなにを感じさせる? これは触れるのか。感じるのか重みを。あると感じさせる確かな意味をそこに見出せるのか。俺は知らない。ただ今ですら直ぐに腐らせて収納させる。どんどん言葉を縮めていく。いれていく。そうして俺は生きていた。生きてそして何を? 呟くだけ。続けるだけ。雑音を雑音と感じ、意味あるそれは瞬間腐り、俺はただ生きていく。そうなりたい。そんなこと思っていなかっただろうがでもなぜかそうなっていくのか。今だって望んでない。それなのになぜかそういう所に引き寄せていく。違うはずだろ。まだそうじゃないだろ。それなのに。そうなっていく。俺が続けていく限り。絶対に。嫌でも思い込みそして泣く。生きて、死ぬ。良かったね俺。死ねたよ。お墓を作ってあげる。砂のお墓。直ぐ潰れるけどいいリサイクルだ。よかったエコだね。君ってエコだ、偉い。偉すぎる。偉すぎる君にしょんべんをあげる。私のやつ。そういう趣味じゃないって? でも欲しいでしょせっかくだからお墓にかけてあげる。供養してあげる。わたしだけがせめてしてあげる。犬っころのポチもきているよ。よかったね。ポチもそういう心があったわけだ。まったくだ。偉い。

そうやってただ過ぎて過ぎて。どうなるんだろう。どうもならない。俺は知らない。それは確かな未来か。未来もくそもない。今日なども俺にはわからない。言葉はどこだ。俺はいてそれだけで。場所などなかった。ただ在った。それだけであった。

 

「今日もいいカニだね」

 有馬明音は平常運転。そういう世界であった。普通なのだ。

「よく生きているな」

「そりゃあそうよ。わたし生きていないんだもの」

 泡だ。泡のまま保存されている。そんな訳ないのに長い俺たちにはそうしか見えない。短いならばそう思えるだろう。そうであるのなら俺は生きていたのだろうか。

 無理だろう。越えていない。それを知るために在るのだ。時間という、時間を知る者はそういう物なのだ。長い白い場所をひとつの泡だったと知るためだけに。俺たちは泡のなかで溺れていた。空気がないそういうつもりで首を絞める振りをしていた。そうして時間が俺を溶かして場所を知れたとき。俺は泡にいたんだ。そう呟き悲しみが溢れる。落ちてそしてただいる。それだけのためにいきている。在るを確かめるそれだけのために。そこにいた。

 溶けない。生きられない。死ねない。当たり前だった。そのためにここは存在しない。時間を知るためにここはあった。時間をわかるためだけにここはあった。罪作りだ、いつの時代も。言葉と言葉が交錯して途惑わせる。そうして次第に豊潤していき俺たちは生きていられるのだ。だから息を吐きただ溺れる。そうして死ぬ。死ねないこの街で俺は死ぬ。死んだ振りだ、いつまでも。でも別に構わない。そういう世界でも今できる本気だ。嘘だとしても。適当でも。本気だった。やっている間は。だから吐く。吐いた。それだけだった。おれはそうでしかいられなかった。そうして過ぎる。泡のなかで白さにまみれて溺れてそして、そして…。

 

勝手に話を創り盛り上がり消化する。俺は日々を生きている。ただ生きている。あなたも彼もさちらもそちらも生きている。生きているんだ。薄い。意識がない。わかっていない。知らないんだ。まだそこにいってないのかいけないのかとにかく勝手にやればいいのだ。飛び込みそれから勝手に潰され流され踏み潰さればいい。そうしてわかればいいのだ、それだけなのに、いつになったら俺はそれをできるのだろうか。悩むまえにやれ。

「でもここにいる。ここにいる。ここにいる」

 有馬明音は踊りながら俺を捻くろうとする。彼女のこえは少し低くそして鋭さなどまったくの手垢に象られたケーブル。遠目に綺麗で近くで見ると何やらボコってる。それなのになぜか耳に引っかかる。彼女はそこにいた。有馬明音は生きていた。確かだった。

「でももうすぐいけそうなんだ。もうそんなことばなんて忘れちゃうほどに」

 自信なんて必要ない。ただ在るだけでいい。それでも俺には自信が必要だと思ってしまう。止まっているから。だからそう感じてしまうのだ。止せばいいのに。でもいるのだった。

 今はもう過ぎ去ったが全く駄目だった時期があったように思う。俺には今の俺には別にすぐさまその記憶が必要ではないので思い出せないがそれはあった。そうなる必然はあった。だから別に必要だったのだ。勇気が。保護が。愛が。母性が必要だった。

 俺は埋まった。少なくともおっぴらげになるほどには。勇気なんてもう大丈夫。ただ在るだけそれだけで充分で在るほどに俺は助けられた。埋めてくれた彼ら。忘れてしまったが俺のなかにはいる。だからまたいつの日か気づかなければならない時に。ありがとう。ただ置いておくよ。そうしとかないとむずむずするからね。それだけだ。

「わたしもういくよ」

 机一面にそう筆ペンで書かれていた。落とすのが面倒だな。そう思い椅子の下に架かっている雑巾をとり教室を出る俺であった。

 

 

 階段を下り、下りて俺は一番下まで辿り着く。何の用があるわけでもないがなんとなくした。奇特な行為。溺れて誇示。そういうものだった。

「なにしているんですか」

 女の子。有馬明音ではない。誰だろう。みたことがない。

「わたしですか? 教えません。そんな変なことしている人には」

そういって彼女は登っていた。こちらをみず登っていた。せっかくなので付いていってみよう。せっかくだから。

「なについてきているんですか。気持ち悪い」

 彼女は軽蔑した目でこちらを見る。だからと言って仕方のない行為。したいからする。それ以外に何と言える。

「セクハラです。大問題です。刑務所行きです。死刑です」

 彼女は腕に載せていた筆箱の中から鉛筆を取り出し投げてくる。痛い辞めてくれ。お願いだから。

「重さを識れ。当たり前の時代を識れ」

そうはいうが。これじゃ死ぬ。

「それぐらいだ。か弱い乙女の心はもう取り戻せないぞ」

そうはいうがこれじゃ俺は転ぶ。

「しねー」

 体当たり。駄目だ。重なって転びそして入れ替わる。王道じゃないか。それはいい。瞬間俺は彼女の身体を受け止め、受け止め

「いやだー」

フィクション知識に長けていたのだろうか。彼女は自ら飛んでいった。そして階段の角に頭をぶつけお亡くなりになった。

「偉いことになりましたね」

 有馬明音はいた。踊り場から見下ろしていた。

「これはあなた死刑ですね。流石に死刑だ」

そういいながら彼女は一段一段ゆっくりと確かに降りてくる。彼女の顔はちょっとした微笑のまま動かない。俺はただ階段の段差と段差の上に横たわり彼女をみていた。

「パンツみえてるぞ」

そういっても彼女の顔は変わらない。少し特をした気分だ。

「重罪です。あなたは重罪です」

「パンツ見たこと?」

 彼女は俺の顔の前に立った。そして見下ろす。眼福。

「あなたは酷い人だ」

 靴の裏が俺の頭の上に。顔は階段に密着。潰れる。痛い痛い。

「全くこれぐらいのこと当たり前じゃないでしょあなたには」

 「全くもって不自然だなこういうものは」

もっともっと顔を踏み潰してくれ。ただそう思う。

「まあたまたまなのね。そうなるってことも自然だわ」

彼女は俺の腰を持ちそして持ち上げ放り投げる。俺は飛んでいき階段の角に頭をぶつけお亡くなりの少女の上に被さった。柔らかい。モフッ。

「こうするのが一番適当だわね」

 俺が最後に見たのは有馬明音のパンツだった。いちごのパンツだった。眼福。いい人生だった。少なくとも。

 

 

 

俺は死んだ。確かに死んだ。だからもう生きてはいない。有馬明音とはもう会えない。死んだのだから当然だ。

 俺は起きた。朝だ。タイマーが鳴っている。煩い。殺す殺すぞ。その調子だったのでタイマーパンツ飛んでいき窓にあたりそして割れた。

散々な朝だ。それでも俺は起きて飯食って服着替えてそして学校にいかなければならない。それがなぜかルーティンってやつなのだ。特になにも思うまでもない当たり前であった。

 俺は靴を履き玄関を開け外の明るさ、太陽の強さを身に浴びてそして道に出た。登校ってやつだ。歩いて駅まで行きそして改札を通り電車を待ちただどこかをみながら待ってそうして電車はやってきて俺は乗る。電車の中はいつも通り同じ人やら違う人やらが乗っていてそれぞれに当たり障りのない行動を謹んでいる。俺もまたそうだ。そうやってただこの耐え難い退屈を過ごす。過ごしさえすれば過ぎるから。単純だった。そうして駅毎に乗ったり出たり繰り返す内に俺が下りる駅に着く。人混みの中ただ申し訳なさそうに潜り抜け降りた時には一件落着息を吐きそうして気を引き締め手に持った荷物を肩にかけ歩き出す。ここは通学路。学校の為の線路。皆は乗り俺も乗る。そうやって生徒は流れに乗りそれを当たり前としていつの間にか教室に入っていた。

 教室は空気が澄んでいた。朝の匂いがとても充満している。

「これは朝だ朝なんだ」

 有馬明音か。そう思ったが声が違う。誰あんた。

「私を忘れるなんてあんたの健忘症も末も末だな。これはパリも燃えてしまうよ」

そういうが知らんもんは知らん。

「広末美紀子。私の名前」

 知らん。知らんもんは知らん。

「まあ別にそれでいいわ。知らなくても別に支障をきたさないわ。わたしたちただ行き惑う関係ですから」

まああんたと話そうと話さなくとも別に俺はどっちだって構わんがな。でも俺にとってのそういう役割を担っていたのは

「なに、ちょっとした浮気。あんたもやるわねなかなかね」

有馬明音だ。

 

ここ。ここはどこ。つぅつぅつつタイムマシーンの。

 俺はどこにきたんだろう。あの場所はどこにいったんだろう。

 死んだのか。俺は生きていたのか。だから死んでしまったのか。

なんて突然なのだ。もっともっと死ぬとわかっていたならば違う思いを。

だから死ねたのだ。それに気づけないほど生きることに夢中になってしまっていたから。

でもそれはない。あれはない。あんな変態おじさんのまま俺はあの場所を終えたっていうなら。なんて面白い死に方なんだ。笑える。他人ならば大爆笑だ。象徴になれるな。学校を代表する人間になれたな。大使やらを超えたよこれは。

でもな。シビアだ。冷や汗。引き締まる。現実なんだ。急にくる当たり前の今。俺は立っていた。世界は在るのか。揺らぐ。倒れる。俺は、俺は、、、。

 

 

 天井。ここは

「保健室よ」

 広末。

「あなたいきなりぶっ倒れていたんだからびっくりしたよ。まさか飛び降り⁉︎ ってな具合だったよ。世話が焼けるってやつだ」

そうはいうが広末よ。俺もそうならざるを得ない現状に直面しているんでなー

「これでも食べておきなさい」

キットカット。口の中にはいっていた。

「チョコは貧血に最適よ」

そうか。そりゃあよかった。

「徹夜のし過ぎよ。漫画の読みすぎも偶には毒ね」

 俺を知ってる。俺の世界を広末は知ってる。つまりこういうことなのだ。俺は嘘の世界、造られた世界から脱却してしまったわけだ。まだ何も決めてすらいなかったのに。

「俺の名前は」

山田太郎でしょ」

 違う。勝手に決めつけるな。俺の名前はもっとかっこいいのだ。そんな余りに高次元な、それともあほうな名前ではない。

「でも山田太郎でしょ。ほら」

そういって広末は俺の生徒手帳に書いてある俺の情報、つまり山田太郎の前略をみせてくる。

「あなたの経歴って平凡ね」

山田太郎ではない」

そこには俺の顔と名前と住所。全くもって全てが違うがこれが俺の世界ってやつなのだろう。全くもって笑える。

「まあ山田太郎には相応しい風体だから大丈夫よ」

そうはいうが広末よ。俺はまだ死んでいないのだ。やりきっていないのだ。少なくともこの身体に移行するなんて以ての外なのだ。だから。だから許せ。

「ああ〜。逃げるな〜」

 俺にはやり残したことがある。あの街へあの世界に行かねばならぬ。たとえこの世界が俺の実際だとしてもまだもう少し待っていてくれないか。やり残したことやったことあったことなかったこと総てを箱に入れて一つの欠片としてしまうのは簡単だしそれこそが俺がやっていかなければならないことだろうが。それでもそれでも俺は。たとえ駄目だとしても俺はやらねばならぬ。せめてせめて一度だけ話させてくれ。それだけ済んだら俺は大丈夫だから、だから。

「無理です」

 顔面にパンチ。俺は弾き返される。

「廊下を走ってはいけません」

そんなの関係ない。確かにいけないことだろうが俺にはそれよりもっと重要なことがあるんだ。それが済むまで少しだけ許してくれ。

「危篤ですか。おじいさんが」

そういうことだ。

「嘘をつきなさい」

バシンッ。顔面ビンタ。俺は吹っ飛んだ。

「どうしてもやらねばならぬ」

 俺は突きっ切る。こんな所で止まってられるか。

「嘘をつきなさい」

 上手投げ。俺は飛ばされ壁にぶち当たり。力士じゃねえんだぞ俺は。

「嘘をつくような程度のことで早退などさせられるもんですか」

 偉いこという先公じゃないか。怒ったぞ俺は怒ったぞ。

「やはりその程度」

 先公は壁に避ける。行きたきゃ行きなさい。そんな感じ。

「その程度なら何ら意味無いでしょうね。ここで済むでしょうね。それでもいくというのですね」

 止まった俺。身体が軋む。息がゼーゼー。少しキツい。

「やはりその程度でしたか」

 彼は俺の肩を持ちそして

「もう授業は始まってますよ。あなたのクラスはいぞこぞ」

と言った。まあそうくるとなぜか俺は冷めてしまっていて彼に対し普通に返答してしまっていた。

「わかりません」

そうすると彼は驚き

「それは奇特だ。一体どういうご案件」

といい俺は

「健忘症なんです。最近よくあるでしょ。そういう一種の例です。これは」

といった。彼は事情を把握したのかうむうむと頷き

「幸いあなたはここの生徒。顔があるなら大丈夫。すぐさまにあなたのクラスは特定できます。授業の参加も容易です。これは素敵なことだ。まったくだ」

といっていた。おれはただ頷き畏まるだけであった。

 

ただ連れられ笑われそれでもただ参加して話しかけるのに対し頭を掻き躱してそうする間にいつの間にやら放課後。俺はカバンをもち帰宅の途についていた。

 俺は山田太郎山田太郎山田太郎山田太郎…。俺は山田太郎なのであった。その名前に相応しい風体を保ちそして生きてきたのだ。たとえ泡に生きていた瞬間があったとはいえこれこそが俺なのだ。当たり前なのだ。だからもういいだろう。俺はもうあれが欠片になったことを確認した。大丈夫。もう生きているよ。だから大丈夫。

 

「ただいまー」

おかえり。そういう声と共に俺は二階に行く。俺の部屋。俺のベット。俺の漫画。山田太郎の部屋であった。

「ここが俺の普通」

それこそが山田太郎の現実であった。

「まあ倒れる」

 外にでると俺は疲れ布団に倒れそのまま寝る。二、三時間寝る。それがちょうどいい。やっぱり俺は山田太郎。当たり前の現実がここにあった。

 

おいしい。おいしいかきたまだ。何やら蕩けている。これはなに?

「イルカの脳よ」

イルカにも脳があったのか。それは意外な話だなー。まったくもってびっくりだ。

「イルカの街としても有名でしょ。ここは」

そうか成る程。そらにも飛んでるわけだな、イルカちゃんが。

「当たり前の話はいいから早く食べなさい」

もうくちのなか。お腹いっぱいになるな。この調子だと。

「御託はよろしい」

はいはい。

 

俺は自分の部屋の窓を開けた。空をみる。イルカだ。イルカがあの俺たちを彼らのお話の中に連れ込ませる声を響かせている。

 何故だろう。音が煌めいている。海に夕日が映りほんの薄っすらな影になったイルカ達。俺は聴いている。船に載って。イルカのこえ。俺は聴いたことがある。こんなこえ。さんまのこえ。

 

「明音はよく生でさんまを食べられるな」

 放課後。午後の道はさんまがピチピチ跳ねている。

「身体に効くのよさんま」

 明音の口周りは血塗れ肉塗れ。俺たちが通った跡にはさんまの残骸が散らばっていた。

「そんなに身体を腐らせてどうするつもりだ」

 明音の身体はもう侵食済み。もう繭が身体中を覆っている。

「私が生きていけるのよ。私として生きるには遠すぎたわたしが生きる為に繭が必要だった。たとえその結果有馬明音という存在が吸収されようがね」

彼女は呻く。もう主導権は蟲にいっているようだ。

「じゃあもうこういう話もできないのかな。明音が生きる為に明音がいなくなるなら」

そういうが明音は

「大丈夫よ。私は生きる。生きられるの。ここにはもういなくなるけどね」

 朗らか。包まれた。彼女は護られ、繭に包まれそして

「ゆめをみるのか」

「いまがゆめなのよ」

 明音は俺の手を握る。黒く繭に包まれたその手で。

「私がゆめから覚めてもあなたはわたしのこと覚えていてくれる?」

 手はやさしくそして震えている。温かくそして生きている。有馬明音の手だ。

「当たり前だろ」

 明音は手をそのまま片手だけをやさしく残してそして正面にたち

「わたしも憶えているよ。なにがあっても忘れない」

そうして彼女は溶けた。蟲になる。蟲が産まれる。彼女の身体を媒体にし蟲が産まれる。彼女は死に、そして。

 彼女は生きる。ゆめから醒め繭から這い出して産まれる。ゆめであれそこで感じた現実を抱きしめて彼女は生きる。そしていつの日か俺も生きられたら。そう思えてなれなかった。

 

何の記憶だろう。わかるがそんな現実なんてなかったはずだ。可能性か。嘘か夢か。わからないが俺の妄想でも確かなものだ。嘘じゃなく現だ。

 握り締め感じ抱きしめて。俺はできなかった。俺はできただろうに。嘘であろうと夢であろうとそこにいくような俺であろうと関係なかった。ただただやるしかなかったのだ。もし俺が生きたいと願うならば。本当の意味、血と肉が湧き立つ、そうでもなくても大切に握り締めていられるようなそんな生命を味わいたいのならただやるしかないのだ。

 俺はどうする。山田太郎はどうする。なにをしたい。一体なにをしたいというのだ。

「当たり前だ」

 俺は窓から飛び降りる。身体は浮き腕はゆっくりと世界の遅さを味わう。死ぬか? 死なない。こんなことで死なない。死んだとしても生きている。それが現実だ。

 地面との接触。身体は響く。骨は軋み折れる。それでもだ。俺の身体はないのだ。山田太郎、御免な。俺にはまだそういうのわかんねえわ。そこまでいってないんだ。もっと下の所で生きているんだ。済まない。

こんな身体まだ似つかわしくないよな。俺はまだやらないといけないことがあるんだ。もっともっとうそとゆめとつぶやきとつづりと。生きていかなくちゃいかない。俺を生きていかなければならない。だからただやる。いきる。それだけなんだ。

 走る。道を走る。どこがあの場所なんだろうか。知らん。でもわかってる。俺は知っている。走ってさえいれば勝手に辿り着くっていうこと。俺が本当にその街に行きたいのなら勝手に辿り着く。そういうものなのだ。だから嘘ならば嘘でそれでいい。本当じゃないなら辿り着かなくていいんだ。だから走る。俺は走っている。それだけであった。

 

人に殴られ車に轢かれカモシカに尻をどつき回されても俺はただ走り走りそして着いた。あの街だ。さんまの街だ。

「ここか…」

ドドドドドドドド…。さんまが降っている。大量に降っている。音は響き俺の心は揺れる。だからといって関係ない。鉄条網。そんなの関係あるか。俺は通る、鉄条網であろうと関係ない。俺は通るんだ。死ぬ、死ぬ。そんな痛み。もう服などどこいった風。血塗れ肉抉れ俺は何処へと行く。

 知るかそれでもいくんだ。もういくしかないのだ。なにがなんでもゆくんだ。

俺の身体は動かなくなる。死ぬ。死ぬのか。俺は。

 血と肉と心。俺の肉はもう動かない。心は死ぬのか。大丈夫なのか。

そんなわけないだろう。でも山田太郎じゃなかった。この心はまだ俺のものだったのだ。

 山田太郎はもう死んでしまった。鉄条網を越えられずただの肉塊として平原に止まっている。

でも俺はただ生きていた。生きて街へと戻った。街にある身体の中へ俺は戻った。

 

 

 

どこを俺は世界と認めるのだろう。そして世界の中の人を俺は知っているのだろうか。知らないならば崩壊するだろう。知っていたなら持続するだろう。世界はそうできている。単純でそしてシビア。簡単なことであった。

 

俺は何をしにこの街へ戻ってきたのだろう。ただただ歩き、道を歩き学校までの遠い道を歩きそして俺は何やら空虚というかどうしようもない赤く黒い感情に身を焦がしていた。

なぜなぜ俺がここに。こんな所もういなくていいのだ。早く早く脱却せよ。そして死ねよ。そう思い、だが。どうでもよかった。戻るとかここにいるとか。俺はしたいことをする。やるべきをする。それ以外の存在はとっくに視えなくなりつつあった。自分に還元せよ。わたしに取り戻す。わたしが残した感情を拾いにいく。そうであった。そうであった。

この街に何が残っているのだろう。俺はしらない。そうか。死んだのだ。俺は死んでいたのだ。

この街に俺の生きられる灯など存在しない。灯はもう俺の中にとっくに溶けていて。それならば。

なにもわざわざここにこなくてもよかったのだ。あのさんまが降りしきる街とは違う、うそとゆめに覆われたこの街に。

 言わなくとも良い。もう俺の中には有馬明音がいる。いるのだ。だからもう別に構わない。俺は手を振る。ありがとう。ありがとう。

さようなら。また会う日まで。

 俺は溶けた。成仏だ。この街は忘れ溶けていく。

ありがとう。ありがとう。それだけであった。

 

 

 山田太郎は既に死んでおり、ならばどうするのだろうか。おれはどこにいくんだろうか。

 答えは簡単、幽霊だ。実体を持った幽霊になるのだ。そういう生き方もある。それがこの世界なのだ。

「まああってなかったからね」

 山田太郎。俺にはまだ遠かった。済まないとは思う。でも太郎もまた俺だろ。太郎の末も末が俺だろ。それならばいうことない。いずれの話だが太郎よ。この幽霊がお前になるのだろう。お前の記憶、身体を思い出し吸収して山田太郎として生きられるそんな日が。

だからそれまでその身体をこのさんまの街に埋没しておこう。いずれ私が全てをこの身体に吸収できた時に。

 私は哲学的幽霊として鉄条網ごと山田太郎を引きちぎって先程死後硬直も硬直しきったさんまたちの塊で掘った穴に入れておく。

「またいつの日か」

 山田太郎。謎であった。彼の存在。いずれわかる日まで。さようなら。

 

 

 

 

私は訪れる。鉄条網を訪れる。ここがあの街。さんまが降った街。

「ゆうなちゃん」

タコ野郎。私の名前忘れたか。

「憶えているさ。でも君はやはりゆうなだ。ゆうなに違いない」

 頭の上。ぬるぬる。なんて奴。

「やっぱりそうだ。これはゆうな。間違いない」

 「なにが根拠」

 「俺は世界中を巡った。海という海。蟹に食われそうになったことも」

 「それがなんだという」

「俺は君を忘れない。確かだ。君がたとえ忘れていようと俺は君の頭を憶えている。確かだ」

「根拠なしね。たこ焼きにしてあげる」

でもヌルヌルした身体。離れてくれ。せめて。

「俺はツルツルだ。タコ中のタコになれた」

もう駄目だこいつ。早く揚げなければ。

「俺は俺を信じられる、ただそれだけのために旅に出ていたんだ」

 私は投げる。たこよさらば。

「ゆうなもやれよ。俺は憶えているから。生きているからな」

たこは溶けなかった。その場にただいて私のほうを見つめていた。

 仕方ない。私は鉄条網を越えていてもうなにもそんな用などなかったのだが後ろを振り返り手を振った。ただ振った。それだけだ。

たこは仕切りに頑張れよ。頑張れよと叫んでいた。

 嬉しかった。

 

 

 

街という存在。在るならばそこは街。そうであろう。

ここは街、なにがなくとも街なんだろう。

 

私は中原舞。この街は私の記憶。何処かで拾った思い出。忘れられない。どうしてもこの場所が残っている、生きている。生きているならば観なければならない。生命が腐る前に。

 

 

ただ立っているだけ。なにをみている。地面をみたりそらをみたり水平線をみたり。

 

みていない。なにもみていない。聴いているだけ。佇んでいるだけ。この場所の存在を感じているだけ。

 

あのひと。笑っていた。ただ走りながら振り返って笑ってた。

 

ゆめとかうそとかそういう街。さんまが降る。降るしかなかったこの街。降る必要があった、あった街。街はなくなりひともいなくなった。

でも記憶はここに。私の頭のなかに。なぜかあるこの存在。消えていない。私と共に生きている。

 

 溶けるとかなくなるとかそんなことない。この街は腐らなかった。腐る前に爛れる前にさんまがこの街を覆った。わたしたちにきっかけをくれた。この街をわたしたちに教えてくれた。明日を教えてくれた。

 

どうするのだろう。自然なのかも。わたしたちがこうなっていくのは当然かな。

でも、だからといって。わたしが思わなければ、感じなければ存在できない。やらなければ在り続けれない。やるかどうかはわたし次第。

 

生きた街。死ななかった。この街は一回り強くなった。

 誰がこの街を知っている。誰も知らない。

 

 街を憶えている。知らなくても憶えている。確かな契り。

 

わたし。わたしが街。記憶。引き継ぐ。受け取る。吸収する。明日へ。わたしはただ生きる。

 

中原舞はやっていきます。ただ生きていきます。それだけです。はい。

 

 

 

長い髪。女の人。誰だろう。

「あなたもここに?」

 話しかけてきた。わたしも返す。

「ちょっとした縁で」

 彼女はちょっと仰いだ。わたしもみる。かぜ。かぜが吹いている。

「憶えていますか」

 彼女はいう。

「もちろん」

わたしは言い返す。

「なら大丈夫です」

それっきり彼女はなにもいわずただ佇んでいた。わたしもまた佇ずんだ。そうしてその瞬間をただ過ごした。かぜを浴び聴き過ごした。それだけであった。