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ふにゃっ

あの星のふもと、かたちが手を振っている

深い槍

一日一文

深い槍みたいなものが自身に絡められている。槍に対してどういう態度を取るのかはその人というものに委ねられるだろうが実際どうすることもできない。踏み潰し破壊し反芻しなければ槍そのものが自身となっていき吐けない吐き気というものに投射しなければやっていけない気分になる。全部どうでもいいことだろうがそのこえがなければ哀しい気分になる。自身というものに支配されている。自らを尊く偉大だと実際問題ただそこにいる空虚なる退廃もどきでしかないのにそれによって要求を満たしている。そうして満足し自身という小さな存在には持て余すしかない個室の窓から月を見ているだけというのがお似合いの生活を続けていくしかない。そしてそれにほんの少しだけ気づいてされどなんともしない。ほんとうの大きな槍のなかにいる。その槍には気づけていない。槍はいま深海に沈んでいる。槍はどんどん純度を増していく。酸素が重い。鼻血がでている。息がつまる。でもまだ自身は存在している。槍のなかにいるわたしにもゆっくりと時限的に槍がやってきている。わたしの周囲に絡められた槍がいつまでも幾つもやってくる。わたしはどんどん刺さり槍のなかの空気にやられていく。その度にわたしは泡をはく。わたしのなかの空虚なくうきはどんどんと抜けていく。私は槍にやられた。わたしのなかは槍。わたしが槍になる。あなたにへと刺さりにいく。そしてわたしは空気をあなたに与えまた空虚になりいずれ崩壊する。わたしを刺した槍もわたしに含ませた後崩壊していった。わたしもどんどんと崩壊していき、そして消えるんだろう。そんなことを考えながらわたしはどんどん含んでいく。それは昔の話で今の話でだから泡を吐く。空虚でいたかったのかいたくなかったのか、全部どうでもいい問題でわたしはとにかく空虚だった。なにもなかった。だから槍はやってくる。空気を刺す。ただそれだけの問題であった。だからわたしはただそこにいる。ここにいるからただ刺さる。それだけだった。

 

少年は槍を持っていた。浅黒く細く鋭い槍。海の見える丘で一人立っていた。少年は海の方になど視野を向けず海の風を浴びてその丘の麓に並立されている繁華街のほうをみていた。素朴な街だった。少年が生まれ育った街だった。
少年はある時に槍を手渡された。神父に手渡された。神父は云う。其れは君の牙となる。君は吸血鬼。君は血を求める。君は人だ。吸血鬼ではない。
少年は云う。当たり前さ、僕は人間だよ。ごく一般的な人間さ。
神父は云う。だからこそ槍が必要なのだ。人間は人を刺す。其れが摂理だ。だが人には牙がない。だから溺れてしまう空虚になってしまう。人は吸血鬼なのだ。牙をなくした吸血鬼なのだ。
少年は云う。だからなんなのさ。僕は人間だよ。だから大丈夫だよ。
でも神父は云う。吸血鬼にならればならぬ。生きるならば血を吸わねばならぬ。そのための牙だ。刺せ人を刺せ少年よ。

それっきり少年は有無を言わさず槍を持っている。同年代の子供たちはみんなお互いに刺し合い殺し合い血まみれになって暮らしている。学校は街は血まみれだった。槍を持ってから気づいた。神父も持っていた。僕を刺していた。
少年の槍には血がついていなかった。少年は刺そうとしなかった。しかし少年の身体は血まみれだった。幾重にも刺された後に満ちていた。
少年は痛さに顔をしかめていた。この場所に刺すものは存在しない。風は身体を纏いされどそれだけだった。街は刺すことでしか存在がなかった。
刺して刺して刺して。それが当たり前だった。もし言葉を話すならばそれこそが言葉だった。刺すことが言語。それを基準にやさしさが決まっていた。
当たり前のことだろうが少年にはそんなものを信じたくなかった。だから何度も捨てた。槍を捨てた。されど槍は手元に帰ってくる。僕の牙。牙がなくならばそれは死んだとき。
槍で自らを刺す。痛い、痛いが血はでてこない。ただ空虚な泡がでてくるだけ。少年は吐いた。そしていま丘の上にいた。
少年は丘の上で何度も自らを刺す。刺して刺してただ空虚な泡が周りを支配していく。でも赤い血は出ない。僕を刺したい。僕自身を殺したい。でもその牙は反応しなかった。自分を殺すことはできない。そんな槍ならばいらない。
少年は海の方をみた。深い海。少年は歩き出した。足を早める。次第に腕を振り始めて脚は回りだす。走る。走って砂浜まででて少年は埋もれていく。足が進まない。砂は足を沈めていく身体を沈めていく。少年は足を動かし続けた。周りをみる。砂浜には少年が一人。この街では海は誰にもみられていない。ただあるだけだった。
少年はなおも足を動かしていた。少年はもう完全に沈み顔まで沈んだ。もう砂のなか。少年は死ぬ。自殺ではなかった。自然に丸め込まれた。
少年は足を動かす。どんどん沈んでいく。それでも動かしていた。だから気づかなかった。いつの間にか少年の腕に槍がなくなっているのを。
気づいていないからこそ少年は足を動かせた。気づいたとき少年は死ぬ。完全に死ぬ。だからこれでいい。足を動かしておけいつまでも。

 

槍で刺す。人を刺す。吐く。血を吐く。刺せば刺すほど血を吐く。血の涙もでている。そして涙を拭いていると槍が飛んできてそれがいっぱいで全身に刺さり僕の血は辺りに飛び散る。犬がやっていた。ペロペロ地面に飛び散っている血を舐めている。僕は死んだ。涙を拭いたから。

膝をついている僕の胸は一本の槍に刺され見事に血を吹き垂らしている。周りには誰もいない。刺された直後は多くの人が僕の周りに集まり僕の痴態を眺めていたんだけど次第に飽きたのか一人また一人と離れていった。そして誰もいなくなった。僕はただ一人ここにいる。
誰に刺されたんだっけな。誰かを刺したからだったかな。でもそれって誰だろ。僕のなかの意識は浮かんでは消えを繰り返した。次第に何も浮かばなくなった。ただ垂れていく血が地面に散らばる音を聞いていた。
なんか懐かしい気がしてきた。僕は昔から槍と共に生きてきた気がする。僕の心臓には槍が刺さっていた。これは実体化しただけなんだ。だから問題ない。
そして僕は目をつぶり意識も失ないひとつの彫刻になった。辺境に聳える胸に槍が貫かれた少年の彫刻は物好きどもにとっての聖地となった。