読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ふにゃっ

あの星のふもと、かたちが手を振っている

 

10時に時計を鳴らすじいさんをわたしはぽかぽかと殴るのが趣味であった。とはいってもそれは10時にしか起こらない出来事でそれは毎日でだからわたしは毎日毎日朝起きてから寝るまでそのことばかりを考えて10時を迎えていたのであった。
じいさんとは一緒の家に住んでいた。いわゆるアパートと云われていた建物の別のドアの先で暮らしていた。じいさんは毎日誰もいないドアの先にある動かない時計を自分の手で鳴らしていた。だからわたしは毎日10時にその部屋にいきじいさんをぽかぽか殴るのである。
じいさんはなにもいわない。ただぽかぽか殴られるだけである。
わたしもただぽかぽか殴るだけでそれ以外何も起こらない。
毎日の出来事であった。
じいさんのことは知らないがわたしはそれ以外に特に何もやっていることはなかった。だから楽しみとかおもしろいとかそんな話ではないけれどじいさんが10時に時計を鳴らすからわたしの部屋にある時計を何度も見てまだかまだかと確かめていた。
そういう暮らしを何年も続けている。
じいさんは一体何歳であろうか。例えばいつかじいさんが死んだとしてわたしはなにか考えてしまうのであろうか。鳴らない時計に対して失ってしまった部品をわたしは補充するのであろうか。
じいさんは髭が生えている。白い髭だ。わたしは時として男爵と呼んでしまう。芋をあげたことがある。じいさんは嬉しそうにいもを持って帰った。蒸し焼きにするそうだ。
わたしは常々寝ている。じいさんは毎日なにをしているかしらんがわたしは10時以外には寝ているという行為がふさわしかった。
ある時じいさんは姿を消した。10時になっても時計はならない。わたしは11時になっても12時になっても時計は鳴らないのをみて不安になってしまい思わず時計を触ってしまった。ねじを廻す。そして時計を鳴らす。じいさんはこない。でも時計を鳴ってしまった。
それから毎日わたしは10時になったら時計を鳴らしている。その部屋に行き鳴らしている。日付は知らぬ。歳は忘れた。でも時計を鳴らしている。じいさんはやってこない。構わずわたしは時計を鳴らしそして、そして。