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ふにゃっ

あの星のふもと、かたちが手を振っている

チャイム

一日一文

チャイム

誰かが私の家だと知ってやってきているのだろう。先程からチャイムが頻りに鳴っている。なにも頼んでいないしだから私は出ない。用があるならば何度もチャイムを鳴らすだろう。鳴らしている。用がある。あるならば。わたしは出ない。居留守だ。碌なもんではない。気にする方が悪い。そうしていつしかチャイムが鳴り止んでいた。わたしは気になり窓からそとをみる。誰もいない。もう用は済んだんだな。よかった。胸を撫で下ろしてわたしは漫画を読み始めた。
次の日の同じ時間帯にまたチャイムが鳴り始めた。何回も一定周期でチャイムは鳴る。何も頼んでいないしだからわたしは出ない。用があるならばもっと自己主張の激しいチャイムを鳴らすであろう。周期が次第に乱れ始める。だんだん間隔が狭まっている。わたしは漫画を床に置いてトイレへと向かった。トイレの窓から微かに姿を見る。一般的なおじさんがそこにはいる。わたしはただそこにいて彼が去るのを待った。居留守だ、悪く思わんでくれ。そうして次第に飽きが来たのかおじさんは首を傾けて家を一瞥した後にわたしの家から去っていた。わたしは胸を撫で下ろす。よかった。そうしてわたしはトイレで用を足してから漫画を読みにリビングへ足を進めた。
次の日もおじさんはやって来た。おじさんはインターフォンの前でどうしたもんかと首を傾げている。インターフォンにはガムがひとつふたつとくっついており鳴らそうとするとそのガムが指についてばっちぃことになるのだ。おじさんは指で鳴らそうとはしなかった。だけど諦めることもしなかった。おじさんは道端に落ちている木の枝を拾いそれでガムの先のスイッチを押そうとした。でも貧弱な木は見事に折れた。おじさんは不満な顔を浮かべている。おじさんは去っていった。諦めたのか。僕は胸を撫で下ろした。流石にもう来ることはないだろう。そう思うとこのちょっとした出来事も中々にくだらない話として流通させることも可能だなと思った。
次の日もおじさんはやって来た。おじさんはゴム手袋をつけてやって来た。おじさんはガムを取ろうとするがガムは硬くなっており外れない。おじさんは力任せに外そうとする。そしてインターフォンと共に外れてしまった。おじさんは破壊したインターフォンを見つめてしばしの沈黙の後顔が急に青ざめていった。おじさんは直ぐに立ち上がりゴム手袋ごとガム付きインターフォンを僕の家へと投げて来た。ああ窓が。台所にそなえてある窓の割れる音が響いた。おじさんは更に顔を青ざめさせて何故かズボンから財布を取り出して千円札を三枚ポストに入れて逃げていった。僕はため息をつき家から外へでた。ポストへと向かいお金だけを拾い家へと戻った。
そこからはしばらくおじさんはやってこなかった。
僕はトイレの窓からいつもおじさんが来る時間帯に破壊されたインターフォンを見ているんだけどおじさんはやってこない。窓もインターフォンもあの時の姿のまま何週間も過ぎた。もうやってこないのであろうか。わたしは修理にかけるお金を見積もり始める。おじさんの馬鹿。馬鹿なのはわたしなんだけど。
翌日おじさんが立っていた。インターフォンを鳴らさず玄関の前で待っていた。わたしはため息をついて少し身体がぶるぶる震えていたけれど玄関を開けた。
「こ、こんにちは」
おじさんの顔には冷や汗。わたしの顔にも冷や汗。
おじさんの口は震えながらも動き出す
「わたしはとんでもないことをしてしまいました」
わたしも震えた口を動かす
「わたしもとんでもないことをしてしまいました」
おじさんは訝しげにこちらを見る。
「どういうことでしょう」
「ガムをつけたのはわたしです」
おじさんの顔は瞬時に青ざめてそして沸騰した。わたしの顔を叩く。そして押し倒す。
「お前なかにいたのか! みていたのか! この! この! 俺がどれだけ苦労したと思っていやがる! 死ね、死ねこの! 社会のゴミ!」
わたしはされるがままに殴られ続けた。後で見ると青タンが膨れに膨れ上がってドラえもんみたいと妹が呟くくらいには殴られた。
おじさんは気がすむと帰っていった。帰る前におじさんからチケットを貰った。プールの割引券らしい。町内の小学生に逐一配るのがおじさんの役目で僕のせいで中々に手間取ったってわけ。
妹にそれを渡すと喜んでいた。踊り始めた。僕は青タンのできた顔でそれをみて笑った。そしてこの顔ではプールにいけないなと妹に云うと
「ふざけるなー!」
と妹も殴って来た。っとその時にまたチャイムが鳴った。だから僕はタコ殴りを敢行している妹を制止してドアへと向かった。
「しらないおじさんだよ。だめ」
と見事に躾けられた妹にも構わずに僕はドアを開けてそして刺された。ナイフを持ったおじさんに。
「きゃー!!」
妹の叫び。なかに入って来るおじさんと男たち。なんだ、なんだこれは。妹、妹が、妹が!!
でもどうすることもできない。僕の周りは血の海。何度も刺されたんだ。
終わりだ。この家の死。下手に関わったからこうなった。チャイムが鳴っている。家のなかはおじさんと男たち。僕と妹の家が犯された。僕はドアを開けたから。チャイムに執着したから。インターフォンなんて必要なかった、あるから、あるから、こんなことに。
僕は泡を吐きご臨終した。妹はおじさんたちに犯されていた。それがこの事件の顛末だった。チャイムが関わった事件だった。