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ふにゃっ

あの星のふもと、かたちが手を振っている

フォーク(変化球)

一日一文

フォーク(変化球)

雪崩のようにフォークが落ちてくる。見事にストンッと落ちていく。あこは川だ。ボールの滝だ。誰が投げたのか知らんけど名だたるフォーク使いが投げ込んだマウンドだ。
今までにどれくらいのフォークが投げ込まれたのか。大魔神が投げた。トルネードも投げた。マサカリも投げた。知らないおじさんも投げている。
「僕はかつて高校球児だった」
落ちないフォークでサヨナラ負け。それ以来おじさんは磨き続けた。
大魔神より凄いフォークが誕生した」
試しにバッテリー組んでみる。
「サインはいらないね?」
すぐさまおじさん投げてくる。僕は初めて見た。フォークってストンッて落ちるんだね。
「君は流しのキャッチャーかい?」
いえ一般的なファーストです。グローブファーストミット。
「僕の目も耄碌してきたようだ。そんなことにも気づけないなんて」
フォークに全精力を使いすぎたんじゃないですか? 凄いですよ。審判カメラからもみたことがありません。
「これが俺の青春だからさ」
そういいながらおじさんはカープラーメンを食べている。まだまだ硬い麺をすすってる。
「佐々木みたいなフォークをもってさえいれば僕も優勝できたんだ」
無理でしょう。
「なぜだ!」
キャッチャー取れませんよ。駆け出しの谷繁でも無理だったんだから。
「…!」
おじさんの口から半噛みの硬い麺がぼろぼろこぼれ落ちてきた。
「やっぱりサヨナラ負けか…」
でもプロに行けますよ。それぐらい凄かったら。今からでももちろん。
「このフォークは青春時代のものさ。それっきりの代物」
おじさんはグローブとボールを僕に渡した。
「あげるよ」
でもこれおじさんのじゃ。
「俺の時代はあの時で終わりなのさ。最後を見届けてくれた君にそれをあげる」
そうしておじさんは消えた。グローブから汗臭い臭い。ボールは傷だらけででこぼこだった。
「おじさん…」
これじゃよく落ちるわけだよ。僕はボールを投げた。ボールは河川敷の雑草のなかに消えた。グローブはマウンドのうえに置いといた。ここで青春時代の名残を消化したおじさんの魂に免じて。