卵の殻保存同盟

落ちた鈍い殻はとてもおいしい、と思う

封筒

一日一文

 

「むしゃむしゃ…」
「なんか紙を食う音が聞こえるね。まさかまさかだけどそれは封筒ではあるまいね」
「むしゃむしゃ。これは美味しい封筒だ。信じられない」
「こっちゃのほうが信じられない」
「むしゃむしゃ…」
まだまだ食うやぎである。
「やぎじゃないよ。トレンドなの」
そう言ってツイッターを見せてくるやぎ改め妹。
「世界のおみそ汁ってところね」
紙食うやぎでペーパーレスが加速している。
「これも世界のミームなの」
そして大切なものが散らかされていくってわけだな。
「思い込みなの。例えばそれは記憶で」
記憶さ。思い出さ。くだらない? そうだろうね。でもそれを大切にしないならばどうして僕たちはなにを意識できるっていうんだい。教えてよ。
「むしゃむしゃ。」
妹は食う。
「これもわたしなの」
やぎはくう。
「だから許してねお兄ちゃん」
僕が書いた紙は全部くわれていく。
「あっ、あっ…」
僕の昨日。明日。それからも。この紙に記した書いた僕という代物が食われていく。そしてなくなって忘れて一体どうやって生きていくっていうのか。
「はいお兄ちゃん」
紙だ。
「動画撮ってるから」
生配信?
「後でアップロードするの」
だから
「むしゃむしゃ…」
夢中で食った。僕の紙。大事な本。全部全部大事な。
「明日からは電子書籍だねお兄ちゃん」
「うん」
この時の動画は今も大事にYouTubeに残している。僕の大事な記憶。大切な記憶。だから残さないと。
「むしゃむしゃ…」
かしゃかしゃ何かを撮る音が町中から聞こえる。
カメラをまわす人がそこらにいる。
紙を食う人はいつの間にかいなくなった。
電子書籍は」
サイトは消えた。データも飛んだ。
YouTubeは」
消えた。動画は飛んだ。
「僕の記憶は」
食った。なくなった。もう思い出せない。
「そんな、そんな…」
「大丈夫。ミームがあるよ」
踊っている人々。カバに食われてる人々。車の上で腕立て伏せする人々。
「大丈夫大丈夫」
とりあえず腕立て伏せして。
「それで僕の記憶は」
「大丈夫。全てはミームのもとに」
これじゃ秘密結社じゃ。
「大丈夫」
そして海岸で夕日を見て食いかけのソフトクリームを放り投げて。
「これもミーム?」
「そう」
何かがおかしい。僕の大事な
「思い出しちゃだめ」
妹は口を遮る。
「思い出しちゃミームになれない」
「なるもんじゃないだろ」
「でもそうじゃないとわたしたち…」
僕と妹の回りには光がなかった。
「だめ、だめ!」
もう遅い。吐き気とくらくらと恐怖と虚無で死ぬ。
「だからミームミーム!」
虎の帽子が大流行り。株で世界を回す、そして大恐慌。ご飯は毎日三食健康。電車でお仕事でかけます。それから、それから…
「もういいだろ」
妹を遮る。
「なにもかも一緒さ」
だから虚無でいる。
「吐きそうだ」
カビが生えてきた。
「風化してきた」
骨の王だ。
「さようなら妹」
「お兄ちゃん…」
ミームと元気でな」
そして骨になった俺はもうなにも話せなくなりただ闇のなか骨が溶けるのを待った。 妹はどうなるのだろう。知らない。でもせめてもの元気を。
「むしゃむしゃむしゃ」
妹は兄だった骨を食い。
ミーム様のご加護を!!」
そうして兄のもとを去った。