卵の殻保存同盟

落ちた鈍い殻はとてもおいしい、と思う

その下

一日一文

 その下になにがあるのかが重要なのです。それ以上になにもいりません。言葉はなんでもいい。どうでもいい。あなたがどこにいてなにを思うかがただ大事なだけでそれ以外は本当にどうでもいいことなのです。

わたしに言葉を含んでいく。その受動的な行動は必要としたときになかったら寂しいからする。それなのに熱中していくと目的を履き違えて言葉の綴りこそが王位となっていきます。それはさいです。忘れてならぬ。わたしはただ素足でさんぽしているだけ。ちょっと気になるねこがちょろちょろわたしを誘い出すからついていっているだけ。忘れてはならぬ。わたしはわたしをただわたしと言いたかっただけなのだ。だんだんと大きくなるにつれて世界は重なり重なりなにが重要で嫌いでそういうこともそこで置いてきぼりにしてわたしは素足で砂浜に立っている。
「わたし山の出身だったのにな」
盆地で干からびていたわたしには砂浜は縁が遠い。
「さわがに」
山にいるかにがなぜこんなところに。
「あなたにとっては山なのですよ」
知らないおじさん。
「アイスクリームを奢ってあげましょう」
そういっておじさんはこの砂浜に一つだけ立ててある寂れた海の家を指差す。
「イカ娘…」
干からびたイカ娘。
「これじゃするめイカ」
おじさんは奥に入っていく。なにをしているんだろう。
「いまからご飯を作ります」
「アイスクリームは?」
おじさんは返事をしない。わたしは煤れた机に座って待つ。
長らくお待ちに待っているとおじさんは皿に料理を乗せてやってきた。皿の上は
「イカフライ」
イカ娘のお友達?
「正真正銘のただのイカでございます」
わたしはイカフライを食う。イカらしく見事に固い。
『わたしじゃないか?』
床に転がっている使い物にならないアナログテレビにはイカ娘が写っている。
「アニメの録画でございます」
そうおじさんはいうが。
(果たしてわたしはどこかへ連れていかれそうな気がする)
でもこのおじさんはなにかわたしを逃さない気がする。この寂れた海の家を拠点としてわたしをどんどんと狂わそうとしているはず。
(そうでなければなんというかおかしいよ)
イカフライをどんどん口に入れながらわたしは考える。どうやればおじさんの気を逸らせるか考えなければならない。
(イカ娘)
干からびたイカ娘に水をあげよう。わたしの唾を垂らしてこのおじさんを侵略させよう。
「イカフライはおいしいですか」
おじさんはこちらの領域に侵入して話す。わたしはふにゅふにゅのイカフライを吹っかける。おじさんは驚く。
「なにをするんですか!?」
(いまだ!!)
わたしは椅子を放り投げて走り出す。転けるな滑るな見失うな。入り口に横わたるイカ娘を起こすのだ。
「つばっ!」
しかしイカ娘は
「ハリボテです」
おじさんはわたしの後ろに。
「イカフライはおいしいですか」
おじさんはイカフライを箸に挟んでわたしの口のなかにいれる。
(へぐ、ふげっ、ふげっ!)
何個も何個も入れる。
「やめておじさん!」
おじさんの腕は止まり
「おいしいですか、そうですか」
おじさんは顔を緩ませて更に手を動かす。イカフライはもうとっくになくなっているのにおじさんは箸をわたしの口のなかにいれる。
(ロボットだこのひと!)
そんな軽いはなしならば大丈夫。イカ娘のハリボテをわたしと入れ替える。ロボットおじさんは箸をイカ娘のハリボテにぶち入れてその行動を繰り返す。
わたしは逃げる。すたこらさっさ走る。山に帰るんだわたし。
「でもここは…」
海岸。山は見えない。
「タクシーでも」
お金なし。
「誘惑でも」
だれも引っかかんない。
仕方なし。ここで暮らそうか。
「海の家に…」
ロボットおじさんはまだ無くなったイカフライを干からびたハリボテイカ娘にあげていた。
わたしはおじさんを蹴る。おじさんはねじが外れて動かなくなった。
わたしは奥にいく。海の家の奥には氷に包まれたイカ娘がいた。
「封印されたイカ娘」
わたしはイカ娘を氷の中から出してあげる。
「い、いか?」
なんて回復力イカ娘。イカ墨くれるか。
「いか、」
うまい。イカ墨おいしい。これで暮らせるさ。日々をなんとかさ。
「わたしは侵略するためにやってきました」
なんかイカ娘性格違う。
「アニメはマイルドなのでしょう。あれは偉くわたしの尊厳に傷をつけています」
そういってわたしをどんどん縛っていくイカ娘。
「わたしを縛っても近親者いないからなにも侵略できないよ。エネルギーの無駄だよ」
イカ娘は首を振る。
「朝食にはもってこいだ」
「そんな」
そういってわたしは握りつぶされてイカ娘に食われましたとさ。おしまい。