卵の殻保存同盟

落ちた鈍い殻はとてもおいしい、と思う

くらげ

一日一文

 くらげって文字面はまたまた僕のなかで生きても死んでもいない浮いた言葉として僕は讃えるのだがそんなくらげを漢字で書くと水母、海月、水月でこれまた神話と叙情が海岸にて融合しあい軽く頰を弛ませて笑っている情景を想像させる。

そんなくらげが僕の世界を覆っていて全ての色が薄まり同じ視線のもとに統一化されていたならばそらにはもちろんくらげが浮いているだろうし海から程遠い山と山の間にて暮らす僕の街にもくらげのとろけた死体がむにゃむにゃ流されているだろう(なにに?。
でもくらげはこの世界でそこまでの支配力を有しておらず海のない僕の街では一度も姿を見たことがない。彼らは液晶のなかでぷくぷく水のなかを浮きアクアリウム。街見るさかなは食われる魚でしかなくそんな街でくらげが田植え時期にしか清く流れぬ浅い川に流されるのは夢物語だ。
くらげという文字は生物くらげを解剖し元素は空気に溶けて街はくらげ色。
田んぼと森と国道で構成された僕の街の案内標識を見上げるとそらは紫と藍と緋で溶けている。街は車が通り過ぎるんだけど彼らは車内を水で充してる。僕は一昨年から存在する山を切り開き川の上をコンクリートで固めてできたバイパス横の歩道にてそんな車から溢れぽとぽと落ちる雫を見ていた。雫は車道をあちらこちらと黒く染みつかせ僕は車が全くやってこない時に歩道を飛び出しそんな雫たちをうっすらふらりと眺めていた。雫は踏まない。この雫は溢れた。山の向こうからやってくる車はどこでこの水を溜めたのだろう。恐らく各々の運転手たちは常に溺れているがそれでも事故を起こさず運転している。車がやってくる。僕はすぐさま歩道へ帰る。事故を起こさせてはいけない。運転手に敬礼。それほど速く通り過ぎない車の中にはくらげが一体泳いでいた。
田植えにはまだ早い田んぼは草がぼーぼー生えているがそんな田んぼに突き刺さるようにくらげが生えている。あのくらげは天然か人工か爺さんに聞いてみると「あれは田んぼ様が作りおった。正真正銘天然じゃ」と言うもので僕はいつの間にかくらげ知らずの土地が侵されてしまったことを実感。爺さんは更に「あのくらげはいい栄養。美味しいお米を包むゼラチン」と刺さったくらげを褒めている。くらげは田に水が含まれ接触するときとろけて栄養を与える。僕が普段食べる飯にはくらげが覆われている。街と同じく僕もくらげ色。鏡で自分の顔をみると顔がゼラチンで覆われている気がした。
僕の頭の中には記憶がある。記憶にはくらげなどこの街には存在しなかったと書いてある。僕がもしそんな街に住んでいたならば溺れていたと思う。くらげは浮いていなくくらげが僕に存在しなくてくらげは海のなかにいる。僕の街にはいないのだ。
実を言うと想像すると僕はくらげを見たことない僕を容易に思い描ける。だからこそこの街から僕は外にはいけない。街の外からやってくる車が何処で水を育ませたのか知らない。海を僕は知らない。潮の匂いは街にはない。くらげは浮いている。くらげが落ちている。僕は踏み潰す。ゼラチンが道に飛び散る。くらげは道に続いている。僕はくらげ踏まず道を進む。バイパスの前にやってきた。あの雫の後はくらげに犯されていた。やってくる車車。車のなかから雫が溢れる。雫は落ちきる前にくらげになった。車たちはくらげ共をどんどん踏み潰す。僕は車がなくなるまでただ眺めていてようやく車道に入ろうとしたんだけどゼラチンが道を覆っていて入れなかった。とても汚くて触ると僕はどうにかなりそうだから。一度踏み潰した靴はゼラチンに覆われている。車の色はくらげ色。
くらげの下に僕は構成されていると思う。くらげはなかったのだろうから誰かがそんな僕にくらげを注入したんだ。この街にくらげは加えられた。言葉は存在する。僕にはくらげはいなかった。溶けた街。色はくらげ、そらは紫藍緋。よろけた僕に教えてくれ。くらげはゼラチンだから密着して離れずいつまでも付かず離れず僕を覆う。もう戻らない。全て消化してみるかい? 君はくらげだよ。実はくらげ。ぽやぽや浮いているのさ。
世の中ではくらげのレシピがある。僕を捕まえて。食べたことないからまず自分で食う。お味はどうなんだ。自身を味覚できるのかな。そもそも痛いかな。官能かな。しょうゆをかけて頂こう。箸で食う。僕の腕頂きます。僕の左手はとろけていつの間にか食用に加工されたんだね。とても美味しいはずさゼラチンさ。
僕の街に汐がやってきた。浅いそらに白くまどろみに隠された月は当たり前と呟く。海は透けていて僕が時々歩いていたあぜ道はいきなりの海に戸惑うことなく草を揺らしてる。

僕の家は浅い川沿いの土地にアスファルトを積み上げて建てられているんだけど庭から僕は家まで届かぬ海を眺めている。フェンスを乗り越えれば直ぐ海。海の下は何事もなく川が流れている。一体なんだろうか。さかなさかなくらげ。くらげはそらを飛び海を泳ぐ。僕はくらげで街もくらげ。山の向こうからやってくる車もくらげで、テレビの中にもくらげがいる。どんどん適していく。くらげが含まれた僕はくらげと融合する。離れられない。次第に僕は溶けて海のなかで泳ぐ。くらげの寿命は数ヶ月。僕も街も直ぐ死ぬ。人の寿命は多種多様。街の寿命はどれくらいなんだろう。くらげに浸食された街は死んでも大丈夫だろう。僕も死んでも大丈夫だろう。どうせならみんなくらげになって海を漂いたい。僕はくらげだけど形はくらげじゃない。海は漂えない。フェンスを乗り越えて海に落っこちたけれどあまりに透けた海は僕に何も与えず浅い川に僕はバシャッと落ちた。僕のくらげは弾けて飛んでいった。痛みに驚き目を閉じた僕は既に人。開けた目にはそらが青。廻りにくらげなど存在しなかった。