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ふにゃっ

あの星のふもと、かたちが手を振っている

Licorice Leaf

一日一文

 奇譚の冗談。とぼけた君が冗談を飛ばしている。都会に用意された小劇場で馴染みの客と血を垂らす。届け壊せと唾を吐くがそれは壁にかかり誰にも届かない。この今の明日を諦めるために用意された小劇場で命を終える花にはなりたくない。でも今まさに自分たちは此処で命を終えるのだろう。頭に掠めながらもただギターを弾いて汗を流して日々は過ぎ去っていく。自分は一体何者か。云うまでもなくここが自分という存在に当てはめられた場所。違う違う違う。いまそこで君は笑って僕の手を握ってくれる。ギターと君と言葉。僕とどれもが繋がっていて全部が奇譚。でも命を終わらせる話だから僕は今日もこの小劇場でいつからか何処からかやらで何故か一緒にいる人たちとギターを弾いている。僕も君も誰かもなにかをみているようでなにもみえていない。そんな空間が僕たちだ。
「私の役は石。偶然必然の果実。あなたの役は花。花粉は真空を嫌う」
花は枯れ果物は腐り僕たちは老いていく。例えば僕の今を君の記憶とこのディスクに埋めたとしても僕は自らが進んでいくことを許容できないだろう。明日僕はギターを弾いていない。言葉を残せていない。君と手を繋げていない。そんな未来が明日ならば僕の天体は廻らない。太陽は常に空に在り月もまた。うさぎは地面を駆け回りちょうちょも飛び回っている。彼らは書き割りとなり時間は平面、これで世界は単純さ。ギターは弾けるし言葉は絶対だし君とは戯れる。みんな祝福するのさ必ずさ。
「私の役は石。偶然必然の果実。あなたの役は花。花粉は真空を嫌う」
花は咲き種を落とし植物は枯れない。花は咲いているし種を落としているし植物は枯れないというのに別に彼らはその存在で世界を喰わない。書き割りでしかないからただ同じ行為の演技で終わる。ずっと同じ世界さここは。
「私の役は石。偶然必然の果実。あなたの役は花。花粉は真空を嫌う」
ここは枯れない世界。時間は今日、明日と太陽、月は入れ替わるがカレンダーは動かない。日は12日から16日あたりを常として在るような無いような具合。植物は枯れない書き割りに過ぎない。その植物たちは書き割りの癖に奇妙にねじ曲がっていく。誰も書き割りを変えていないというのにこの固定された世界で君たちだけが奇妙に生きている。まるで枯れない世界でそれに否と述べるかのように。
「私の役は石。偶然必然の果実。あなたの役は花。花粉は真空を嫌う」
毎日ギター弾いて君と話して言葉は誰かを強く響かせる。毎日毎日毎日僕は朝起きて昼動いて夜寝る。天変地異を望むのか。どんどん植物は世界で見ぬ奇妙なかたちを伸ばしていく。世界を覆わないが悲鳴をあげながら成長していく。今日もまた劇場を興奮の渦に導いた僕は道の端で植物を演じる書き割りを見る。叫び。ここは君の世界か否違う。書き割りはいつでも君の話を演じてあげるけど僕たちは違うよ。枯れないけれど変わっていくよ。どんな植物になるだろうね君がこのお話に幕を閉じたときが楽しみ。多分君の話奇妙だから長続きするだろうからそれはそれは物凄い奇譚な植物になるだろうね。待ってるよ、うん。
「私の役は石。偶然必然の果実。あなたの役は花。花粉は真空を嫌う」
僕の世界、ギターは巻かれ君は遮られ僕の身体の中には花が咲いている。書き割りは今日も何言うこともなく僕の世界を演じているけれど植物は奇妙に奇妙で僕を縛っている。ここは僕の世界なのに何故君たちは此処までに声を届かせるのだろう。僕の身体の中で花は咲き種を落とし今僕の口から草木が伸びてきた。
「私の役は石。偶然必然の果実。あなたの役は花。花粉は真空を嫌う」
僕の身体の中は花で周りは草木でいつの間にか僕は僕の世界で姿を消した。覆われてまみれて僕自体がまるで植物。僕の書き割りの世界は世界を喰わない植物たちに覆われた。地面は全て植物で今にも彼らは書き割りの太陽と月にまで進出しそうだ。
「私の役は石。偶然必然の果実。あなたの役は花。花粉は真空を嫌う」
今僕は僕の世界で視点をなくしただ神としてこの世界を眺める。植物に覆われた書き割りの世界。全てが全てが演技的で毎日は定められていてもうみんな植物に絡められても書き割りたちは行為を止めない。太陽と月は時間が来れば瞬時に入れ替わるしうさぎはぴょんぴょん跳ね回っているしちょうちょはふらふら飛んでいる。もう地面も空も植物で身動きできないのに彼らはそれをぶち破ったつもりで嫌がるんだ。この僕はもう植物だというのにね。劇場に僕は登場しないのに客たちは盛り上がり泣いているやつもいる按配だ。ギター弾き言葉を吐く僕はいないというのにね、何聞いているんだろうこいつら。
「私の役は石。偶然必然の果実。あなたの役は花。花粉は真空を嫌う」
僕は終わらない。創り上げた世界は今日も今日とて今日を演じている。植物は僕の頭の限界を飛び越えて宇宙とも云える空間にまで進出しても変わらない。太陽と月は入れ替わりうさぎは扉を知りちょうちょは魔法を教える。ただギター弾いて君と話して言葉を残す僕はいない。宇宙に行っちまった。植物となってね。
「私の役は石。偶然必然の果実。あなたの役は花。花粉は真空を嫌う」
そういうこと考えていると一体僕は生きているのか死んでるのかまったくわかんなくなっちまう。僕の世界に僕は不在なのに書き割りは世界を変えない。もうがんじがらめな書き割りは延々と彼らの業務を止めない。僕は特に意味ももたらさない僕の世界。ギターは弾かれず君はひとりぼっちで声はもう喪い植物はただ伸びていく。奇妙に自らを捻じ曲げながら。
「私の役は石。偶然必然の果実。あなたの役は花。花粉は真空を嫌う」
植物に攫われたんだ。思考も記憶も情念もみんな失っちまった。ただ神の視点で世界を眺めている。確か僕は延々にこの場所を演じたくて生きてきたはずなのに身体を失った僕は僕自身を演じなくても大丈夫みたい。ただ此処があるだけでよかったのかな?
「私の役は石。偶然必然の果実。あなたの役は花。花粉は真空を嫌う」
そうなんだろう。僕はギターを弾けないし君と手なんか繋げないし言葉を吐こうとしない。僕自身浸かるのが好きでそれが変に上手くいったもんだからこんな奇妙な世界を演じることになっちまったわけだ。
「私の役は石。偶然必然の果実。あなたの役は花。花粉は真空を嫌う」
そうとわかるともう僕は迷いなし。ただ身体を失った僕はこのまま植物のなかで奇妙に伸びて捻じ曲がりながら僕の世界で奇譚に咲く花として宇宙を演じよう。咲ききった瞬間僕は瞬時に枯れよう。その瞬間一番大きな言葉としてそこに存在する僕の世界。その為だけに存在しよう。
「私の役は石。偶然必然の果実。あなたの役は花。花粉は真空を嫌う」
それまで僕はただ無意識に奇妙な僕の世界に咲くこの植物連合に委ねる。そして咲ききった瞬間に目を覚ます奇譚の花としてここに刻印する。Licorice Leaf。それが僕の名前。